ヒコーキ耳のしぐれさん

ねばっこい水音が、寝室の薄暗がりの中で、断続的に響いていた。
鼻腔から抜ける、甘えを帯びたくぐもったうめき声をともなって、
唇をはみ、舌をからませ、歯茎をねぶり、互いの唾液をすすり、呑みくだす。
白く光る懸け橋が、私と彼の唇を未練がましくつないでいるのがおかしくて。
対面の彼の、とろけて火照った表情(かお)がいとおしくて。
私の口角は、吊り上がることを抑えられなかった。

「しー、さん」

耳朶が拾ったのは、精通してなお、低く太くなることのない、鈴を転がすような声。
犯してほしいんだな。
愛してほしいんだな。
是非、私のこともそうしてほしい。

変声期前のかすれたおねだり声をこぼす、愛らしい口許に、私は再びむしゃぶりついた。
へその辺りに、熱く硬い小さな塊がめり込む感触も、
腕の中で、甘い匂いを漂わせて震えるあたたかさも、
華奢な胸板が、私の無駄に大きな乳房を押しつぶし、
昂った乳首を起点に走る、快い紫電が脳を灼くのも、
全部全部いとおしい。

もう一度大きな水音を響かせて、私は彼の唇を解放してあげた。
互いの唾液に濡れた唇を、これ見よがしに舐めずりながら。
実に甘かった。
このカラダになった利点を挙げろと言われたら、
私は真っ先に「ゆーくんの身体と精が旨い」とほざくつもりだ……欠点?
もともと無駄に大きかったバストが、余計に膨れ上がりやがったことと。

「しーさん」
「うん……」

彼のそばにいるだけで、ぶんぶかぶんぶか馬鹿みたいに振り回される尻尾と、
彼に無条件降伏をしたように、撫でろ撫でろと左右に寝くさる耳が生えてきたことだ。
私は駄犬か?

「しーさん」
「きゅうん」

……駄犬だったわ。
つむじから耳や後頭部にかけて、やさしく流れて行く、
ゆーくんの小さくあたたかい手のひらの感触が、ひたすらにキモチイイ。
ギアの上がった尻尾がうざったい、鼻を抜けてゆく甘え声が情けない。
くそ、私はゆーくんのお姉さんだぞ。
安い女ではない、ないんだ……!

「しーさん、すき」

嘘をついて申し訳ありませんでした。
私は、清水しぐれは、安い女です。
恋人の青戸由宇くんに、頭を撫で回されて抱きしめられて好きだとささやかれるだけで、
心臓が飛び跳ねて、脳みそが灼けて、下の口が大洪水になる、万年発情期のメス犬です。

くそ、誰なんだ、私をこんな馬鹿犬に仕立て上げたのは。
ああ、顔に出ないだけで、もともと度が過ぎた年下趣味の馬鹿犬だったわ。
魔物娘に、ワーウルフになったから、耐えられなかったからと、
お隣の◯歳も下の男の子を押し倒して、三日三晩も貪り倒した挙げ句、
恥知らずにも恋人にしてくれと懇願した、底抜けの馬鹿女だったわ。

こんなおっぱいだけの変態を受け入れてくれてありがとうゆーくん。
ヴィンテージ押しつけてごめんねゆーくん。
ヴァージンおいしかったよゆーくん。

彼の瞳の中に写る、目尻が吊り上がった無表情の、
そのくせ頬に血の気を昇らせた、ロングヘアの童顔が疎ましくて、
私はゆーくんの白い首元に鼻面を埋めた。
ああ、おいしそうな匂いがする。

「ゆーくん」
「はい?」
「噛んでいい?」
「どうぞ」

苦笑い混じりの承諾をされるや否や、
肌に触れた唇が、食い込んだ歯が、甘く快い痺れを伝えてきた。
耳をくすぐるうめき声、舌に染み込むうっすら掻いた汗、
鼻に届くのは愛しいツガイの精と混ざり合った、かぐわしい未成年の体臭。
私がいだいていた薄っぺらい罪悪感など、瞬く間に忘却の彼方に追いやられてしまった。

銀灰色の毛皮に覆われ、分厚い肉球とゴツい鉤爪を備えた、
私の右手の中で、彼の華奢な左手が、ひたすらにあたたかい。
一方で、私のへそにめり込んでくる、
充血した未熟な海綿体は、火傷しそうなほど熱かった。

ああ、匂いでわかるぞ、もう我慢できないもんな、
一度スッキリさせてあげるから、な。

「ゆーくん、このまま、食べる、ぞ」
「どうぞ、お願い、します」

互いの瞳に写り込んだ表情は、そっくりだった。
劣情にとろけて緩んだ口許、
あったかい血の気に染まった桃色の頬、潤んだ目元に汗ばんだ額。
上体をもたげた私は、
膝立ちになって彼の細い腰をまたぎ、ゆるゆると尻をおろしていった。
もちろん、添えた指先で、彼の包皮を剥いてあげることは忘れずに、だ。

「あ……は……あっ」

しとどに濡れた粘膜を掻き分けていく灼熱、
脊髄を駆け上がる稲妻、頭蓋で爆ぜる花火。
欲望に火照る未成熟な切っ先が、
胤を求めてハードルを下げに下げた私の最奥に、
コツンと届いてくれたのが、ハッキリとわかった。

「我慢しなくて、いいからな」
「うん……」

とか言って、できるだけ我慢しちゃうんだよな、ゆーくんも男の子だもんな。
でも、しぐれ姉さんは、意地悪なんだ。
すぐに降参しても
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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33