あとしまつ

まぶたをあたたかな日射しがくすぐった。
メスの体臭に満ちた鼻腔とは対照的に、空っぽのみぞおちが情けなく鳴く。
我ながらなんともみっともない目覚ましだった。
だが、私を包んでくれているぬくもりと、四肢の重さに申し訳ないような気がして、
ベッドの上での同居人が洩らす、可愛らしい含み笑いに促されるように、私は目を開いた。

「おはようございます、お腹すいたんですか?」

まず灰色の寝ぼけまなこに映ったのは、弧を描く瑞々しい桜色の唇から零れる、
粒の揃った真珠のような歯並びと、そこだけ剣呑に尖った長めの糸切り歯だった。
だが、その剣呑ささえ、彼女の見目麗しさを引き立てる要素でしかない。
惚れた弱みをさっぴいてもだ……しかしまあ、惚れたか、ああ、我ながらちょろい。
そんな自嘲を飲み下しながら、私は努めて平静に挨拶を返した。

「おはようございます、シスター」
「はい、ブラザー」

左口元のほくろから視線を上げてみれば、彼女の名前と同じ藤色の瞳の中に、
いかにも起き抜けでございと言わんばかりの、なまっ白くしまらない童顔が浮かんでいる。
そのくせ、発情だけは一丁前だ。 気恥ずかしくなった私は無言で腰を引いた。
しかし、このサキュバス殿――いや、ダークプリーストと言っていたか――は御無体であった。

「ダメですよぉ、グリグリっ♪ ……って、しててくださいな」

しなやかな右手と肌触りの良い黒い右翼に腰を抱き寄せられ、
すべらかな腹筋に半ば包皮に隠れたままの先端を刺激されて、思わず惰弱な悲鳴が零れてしまう。
ああ、そういえば、私も彼女も一糸まとわぬ全裸だった。
甘い狂乱に溺れ、さんざ気をやった後、ついには意識まで手放してしまったものらしい。

――冬でなくてよかった。

などと現実逃避気味にどうでもいい事をつらつら思い浮かべていると、
私の左脚にあたたかくすべらかでブニブニとした細長いものが絡んだ。
シスターの第五……いや、両翼も勘定に入れれば第七の四肢である、彼女の尾だ。
するすると私の左脚を這い上る感触は、どことなく飼い主にじゃれつくネコのようだ。
ただし、持ち主同様、ずいぶん悪戯好きかつ、サカリがきているらしい。

「お尻はやめてください」
「けちー」

――まあ、できるだけ近いうちに、後ろの処女も交換しましょうねぇ……
#9829;

鼠蹊部へのマッサージと、睾丸への刺激に切り替えながら、
シスター・グリシーナは、女神もかくやという慈愛に満ちた満面の笑顔でのたまう。
上気した表情に、思わず胸骨の下で鼓動が跳ねるのだが勘弁してもらいたい。
つーか入るわけねえじゃん、ぼくの掌よりふた回りはでけえぞ、シスターの尻尾の先のコブ。
……思わず素が出てしまったが、見なかった事にしていただきたい。

「安心してくださいな
#9829; お腹の中も、お尻の穴もぉ……キレイにキレイに洗ってから、
 たあっぷりとローション練り込んで、やさしくやらしくほぐしてあげますからハァハァ……」

ローションってなんじゃらほい。 とりあえず鼻血をふけよこのダメスネコ。

「ゆーべみたいに舐めとってほしいにゃあ♪ ……むぐっ
#9829;」

仰せのままに、鉄臭い鼻の下を舐めて清めるついでに、
目が覚めているハズなのに寝言を垂れるという器用なマネをしくさる唇に吸いついて塞いでやった。
お粗末な罪深い部分と、そこから溢れた欲望の発露を貪った唇は、それでも甘く潤ったままだった。








「おいしいですか?」
「はい」
「よかったぁ……もうひとつ、どうですか?」
「いただきま……親鳥かあんたわ」
「めっ」

しばし戯れたあと、再び情けなく鳴いた腹の虫を合図に、私達は見繕いを済ませた。
そして、シスターがどこからともなく取り出した、黒いイチジクのような果物を口にする事になった。
ただし、ふたつ目のイチジクを口移しにされる前に、私がシスターから貰ったのは、
「どこのろくでもない不良拳士ですか、おやめなさいな、みっともない」とのお言葉とともに放たれた、
速さも威力も閃光じみた――文字通り目が眩んだほどだ――右手中指の一撃である。
お互い遠慮が無くなっていると思う……いや、彼女の辞書に遠慮の文字は無いな、最初から。

「遠慮ならありますよ? 具体的にはブラザーの処女」

犯したろかこの尼。


#161;Bienvenido(うぇるかむ)!」
「どこの草双紙の主人公ですか」

女性用下着を仮面のように被って悪人を成敗する、若き義賊を彷彿とさせる勢いの歓迎である。
笑顔もさりながら、身振り手振りにつられて、大儀そうにゆさっと揺れる黒衣の下の双実がまぶしい。

――ああ、下着といえば、今の彼女は、その……。

昨晩、私の薄汚い欲望を受け止めたそれは、どこに行ってしまったのだろう
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