後編

「だいて、ください」

彼女の申し出からどれだけの時間を浪費していたのだろう。
酷く、ひどく長い間、思い悩んでいたような、
それとも、未だためらいが捨てきれないふりをしてみせていただけだったのか。
ずーっと、ずーっと、浅ましく張りつめたモノをさらけ出したまま立ち竦んでいた私が、
どうにか搾り出したのは、音量も声音も文字通り蚊の鳴くような懇願だった。
我が事ながら、立場も見た目も台詞も行動もブザマとしか言いようがない、それなのに。
眼前のサキュバスは、私が道ならぬ想いを抱いていたあの人の、
私が思い描いていた都合のいい写し身であるかのように。
まるであの人のようにいたずらっぽく、瑞々しい色香を垂れた目元からしたたらせて。
あの人がしてくれていたように、親しみとからかいを込めたのか必要以上にかしこまって。

「求めるのなら、与えましょう。それが私達の務めですもの、ね」

おいで。

一転、子供をあやすようにささやいた魔性のシスターは、
桜色の唇でやわらかく弧を描いて、両手をひろげて見せてくれたのだった。
左の口許のほくろと、唇の狭間から覗いた長い犬歯の先端が、酷くまぶしく、蠱惑的だった。

――やっぱり違うんだな。でも、同じくらい、素敵だ。

その呟きは、気づけば私のそれらを貪る唇と舌に絡め取られ。
目の前の彼女に重ねていた、いとしい姉の虚像を巻き込んで。
濡れた粘膜から伝わり、私の頭と胸を煮立てて溢れた熱に浮かされて、
跡形も無く揮発したかのように見せかけて、
下腹で息づくちっぽけな獣欲の権化を、ますますいきり立たせるのだった。




熱く、やわらかく、甘い。
五感のすべてが、粘膜から身体の芯までを焼き尽くすような快楽と充足を伴って、
そう叫んでいました。
腕の中の彼がいだく、ぬくもりと若い精の香りのせい?
不安そうに揺らぎながら、ちゃんと欲情に濁りきった灰色の瞳のせい?
修道服越しにコリコリとお腹にめり込んでくる、かわいらしい肉のすもものせい?
それとも、拙いながらも必死な舌使いの合間に漏れる、鼻にかかったあえぎ声のせいかしら?

――まあ、それら全部、ですよねえ……
#9829;

唇から唾液のカクテルを舐めとって、私は慈母の笑顔を浮かべてみせました。
いや、だらしなーくユルんだ顔も、獲物にかじりつく寸前の飢えたケダモノの顔も、
見せたらどっぴかれちゃいそうですからねぇ……。
頑張れ私の表情筋、せめてこの子の赤ちゃんのモトが、お腹に根を張るまでは。
……さて、下拵えついでのつまみ食い……じゃなくて、
仔羊への奉仕(ほしょく)の準備を続けましょう。 性職者として、メスオオカミとして。

女の子めいた悲鳴が快く耳朶をくすぐるが早いか、
私の手の中にすっぽり納まった熱い肉の蛇口が、
今すぐにでも爆ぜたそうにひくひくして……あ、やべ。 もうダメっぽい。

せつなそうな謝罪の言葉と同時に、右手から飛び散ったオスの体液が描いたのは、
私の胸の谷間の底からおヘソの辺りをつなぐ、途切れ途切れの白いラインでした。
堕落神を信仰する女として、これは悦ばしく誇らしいことであり、
そういう気持ちがないこともないのですが、その……もったいないなあ……。
と、最後の部分は口にしてしまっていたのでしょう、
リピートされた謝罪の言葉は、今にも泣き出しそうに萎れてしまっていました。
まるでしょげてしまった仔犬のような様子に、胸の先と下腹部の奥で疼きが強まります。
ただ、その疼きで笑顔を歪ませないように気をつけないと……ダークエルフじゃあるまいし……。

「気にしないでくださいね? 堕落神の信徒(わたしたち)はお互いの欲情の証、
 体液にまみれながら求め合うことこそ望ましいんですから」

濡れた右手を口に運べば、えっぐい苦味と塩辛さに引き立てられた、
魔物のみが愉しめる精の妙味が口の中いっぱいに広がりました。
思わず表情が綻ぶのは、きっと初めて味わう活きた精が、
早くも身体に馴染んできた証なのでしょう。
目の前の小柄でかわいらしい男の子から、今しがた手ずから搾り出したという事実も、
魔物の捕食者としての本能を満たして、満足感を増幅させているようです。

――義姉さんの言うとおり、あのおクスリは味気ないどころじゃありませんね……。

瞬きひとつで、六年間お世話になった、精を摂取する為の秘薬にお別れして、
空いていた左手でぷりぷりしたタマタマを撫で上げつつ、
私は、ほのかに唾液臭くなってしまった右の手のひらで口元を隠しました。
そうでもしなければ、綻ぶどころか歪み崩れてしまった笑顔で、
この子を怖がらせてしまいそうですもの。 まーた鼻血出ちゃいそうですしね……。

あー、それにしても、この子のタマちゃんはいいなあ……。
見た目がカワイイ・二回目の射精でも味も濃さ
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