昼下がりに淫火は燃え盛る

ふと気がつくと。
狭い下宿先の一室から、ささやかな酒類が、一滴残らず消滅していました。
同居人の嗜好品や、料理に使われるものはもちろん、
僕がアカデミーの実験や儀式などで使用する薬酒まで、ことごとく。

「しゃーねえだろ、酒が無くなるのは自然の摂理だぜ?」
「蒸発しちゃったみたいな言い方をしないでよ、
 お芝居に出てくる、ヤクザのおじさんじゃあるまいし。
 姉ちゃんが全部飲んじゃったんじゃないか」
「まーな」

僕の呆れた視線もどこ吹く風と、ベッドの上で大あぐらを掻いて、
小さな酒瓶片手に「ちっ、もーカラかよ」とぼやく、二十歳過ぎくらいの女の人。
吊り上がった狂暴な目つきに、唇の隙間から覗く、長めの鋭い糸切り歯が強面の印象を与え、
これまた長く尖った耳が、それに拍車を掛けている。
十分に美人ではあるけれど、どうにも剣呑な容姿だ。

「しかし、おっかない首から上のパーツとは裏腹に、
 女性らしさを感じさせるおっきいおっぱいは、
 僕の◯ちん◯んをむっちり包み込んで、あっと言う間にイかせてしまいそう……」
「地の文に割り込んでこないでよ……」

……えーと。
出るべきところは出て、くびれるべきところはしっかりとくびれた、
メリハリのある長身。
やや体温の高い、滑らかな朱色の肌。
光の当たり具合で金色がかって見える、癖の強いセミロングの赤毛。
白いシャツの袖口や、洗い晒した青い作業用ズボンの裾から溢れる、鮮やかな魔力の火。

先日、見習い魔法使いの僕と契約を結んでくれた、イグニスと呼ばれる炎の精霊だった。

「どっちかっつーと性霊だよな……自分で言うのも何だけどさ」
「ノーコメントで…って、だから、地の文に割り込むのはやめてってば。
 で? どうしたのさ。 晩酌の分まで飲んじゃって」
「朝っぱらからあんたがずーっと机に向かってるからヒマなんだよ、ガッコー休みなんだろ?」
「課題が出てたんだからしょうがないじゃない、本でも読んでれば?」
「料理の本もエロ本も暗記しちまったっつーの」

他のジャンルの本は読む気が無いそうです。
……でもまあ、前者の内容を元に、おいしいご飯を作ってくれるだけマシなのだろうか。
どうにも面倒臭くて、自分では料理なんてした事なかったしなぁ……。
と、酒瓶をテーブルの上に置いて、歩み寄ってきた姉ちゃんが、
僕の回想を遮るかのように口を開いた。

「それよりアレやろうぜ、アレ。
 契約の儀式とか、魔力供給とか、ベッドの上でのコミュニケーションとかさ」
「全部一緒じゃん、セ……セッ…………」
「セックスな…………ったく、あたしが痛い思いしてまでオトナにしてやってからこっち、
 毎朝毎晩溺れそうなくれー膣内(ナカ)に射精(だ)してるっつーのに、
 童貞のまんまみてーな真っ赤な表情(ツラ)しやがって……そそるじゃねえか、犯すぞ?」

言葉を重ねるごとに、好色なニヤニヤ笑いを深めていく姉ちゃんに、
僕は赤面のままジト目を向けた。
別に姉ちゃんの八重歯がセクシーだとか、
えっちな笑顔を見ていたいとかじゃないんだ、建前は。

ちなみに、僕が何故このイグニスを『姉ちゃん』と呼んでいるかと言えば、
僕の外見や物言いが、余りに幼くて頼りないので、
侠気と構いったがりなところを刺激されてしまった彼女が、

「ずーっと一緒にいてやんよ、ホントの姉ちゃんだと思ってくれていいからな」

と宣言した結果である。
『契約』の時に、始終彼女にリードされっぱなしだったのが致命傷だったんだよな……っと、
閑話休題。

「独り立ちもしてないのに、インキュバスになるつもりは無いんだけど……。
『ガキの分際でどれだけHしてるんだ』って言われそうで恥ずかしいし」
「あたしが許す! てか、手伝ってやるからなっちまえ♪」

ニヤニヤ笑いから一転、人懐こそうなやわらかい表情にシフトして、
シャツの襟元をくつろげる姉ちゃん。
小柄な僕の着替えだったそれは、やはりキツかったのか、
襟刳りから覗く、押し込められて強調された胸の谷間に、つい視線が吸い寄せられ。

「スキありっと」

次の瞬間には、僕の顔は、視界一面に広がった、双子の赤いメロンに挟み込まれていた。
途端に襲いかかってくる、張りのある弾力と熱いくらいのぬくもり。
そして、年頃の女性特有の、ほの甘い体臭。
つむじの辺りにくすぐったさを感じるのは、姉ちゃんが顎の先端を、
甘えた唸り混じりにグリグリと押しつけてきているからだろう。

――まあいいか、課題も終わった事だし。

流されたくなるのを我慢して、僕は姉ちゃんのくびれたウエストを抱きしめ返す。
そして、視界を塞ぐ双子の夕日に頬擦りして、
荒っぽい口調に似合わない、可愛らしい悲鳴を持ち主にあげさせてみる。
すると、形ばかりの悪態をついた姉ちゃんが、
一層強い力
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