「暇ですねえ……」
ビロードが張られた部屋の中でぐだつく女性が一人。
「いい加減誰か来てくれてもいいんですがねえ……ここ、一応箱娘の会で男漁りおすすめスポットだったんですが……」
被っているシルクハットを軽く上げ、軽く部屋の天井もとい、箱の天井を持ち上げて外を見てみるが、いい男どころか人すらいない。
私はミミック。宝箱に潜む有名な魔物だ。
現在フリーな私は、鋭意イケメンハント中。
が、ここ最近いい男の人間が現れない為、大変に暇を持て余してしまっているのだ。
「マジックの練習でもしましょうかね……」
何処からかトランプを取り出して、トランプ手品の練習を始める。やっぱり手先を動かしてると落ち着きます。
私は手品が趣味だった。箱を開けた人を驚かせるのも好きだが、手品を見せた時のあの驚きと好奇心に満ちた表情を見るのがたまらなく好きだった。
と言っても私は魔物娘。魔法は得意な部類なので人化の術も使えるが、もしバレてしまった時の反応が怖くてあまり人前でマジックを披露したことはなかった。せいぜい同じミミック仲間が関の山。
「やっぱり、愛する旦那さんが欲しいものですねえ……会のメンバー達が羨ましいです。」
愛するパートナーを手に入れたミミックと話す機会が最近あったが、二人揃ってとても幸せそうな顔をしていた。
産まれてこの方独り身の私にはそれがとても羨ましく思えたのだ。
そうして今日も収穫はなしかと諦めの気持ちすら湧いてきた時、外から何者かの気配がよぎった。
「んん?これは……微かですが、精の匂い……やっと誰か来たんでしょうかね?」
広げていたトランプをしまい込み、こっそりと外を透視の魔法で覗き見る。流石に近くに人がいる状態で蓋を直接動かしたら、中に私がいるのがバレてしまうし。
空間に浮き出た透視された風景を見てみると、そこにいたのは予想通り男性だった。
歳は……17、8くらいだろうか。童顔の、くりっとした可愛い顔をしている。
体格は小さめだが、全体的に引き締まっており、華奢な印象だ。
「わあー!このお兄さんかなり上物じゃないですかぁ!」
思わず近くにあったマジック用のステッキを振り回して喜んでしまう。
「うんうん、何処と無く儚げな雰囲気に童顔の可愛らしいお顔……あぁ、私の好みにストライクです……さあ、早く箱を開けてください!」
服を整え、最初に何をして驚かせてあげようか考えながら、今か今かと目の前の青年が宝箱を開けるのを待つ。
しかし、そうは問屋が降ろさなかった。
勢い良く飛び出て驚いた顔を見ようとしたその瞬間、予想外の出来事が起こった。
カチリ、と何かを鍵穴に差される音。
その瞬間、まるでバネに弾かれたかのようにぴょん、と宝箱から追い出されてしまった。
「………………へ?」
「やっぱり。」
目の前のお兄さんが、わかっていたと言わんばかりの呆れ顔で私を見下ろしている。
対して私は地べたにぺたんと尻もちを付いている状態。自分でこんなことを言うのもあれだが、非常に情けない。
「忠告、するわけじゃないけどさ。流石にこんな目立つところに宝箱なんてあったら誰でも気づくと思うけど……」
止まっていた思考回路がやっと復旧し始める。
「あー、え、えっと……ど、どうもーお兄さん、なはは……」
完全に意表を突かれてしまい、考えていた台詞が全部吹き飛んでしまった。
「なんか拍子抜けだなあ……ミミック、だよね君?」
「へ?そうですよ?私はミミックですけれど……」
「……イメージと違う。もっと凶暴で、近寄った瞬間バクっと宝箱から牙でも生やして食うのかと思ってた……」
淡々とお兄さんはいかにも魔物と言わんばかりの凶悪なイメージを語る。
「あぁ、それは昔の話ですね。今のミミックはみんなこんなもんですよ?まあ私は結構変わってる方でしょうけれども。」
「お兄さん、話聞いてくれそうですから私からも質問なんですけれど、なんで箱開ける前から中に私がいるってわかったんですか?気配は消してたはずなんですけど……」
パンパンとお尻から汚れを払い、立ち上がりながら聞いてみる。それにしてもこのお兄さん、魔物娘が目の前にいるのにやけに冷静な気がする。
「このダンジョンの宝箱にはミミックが多いって噂が立ってたから。それにあからさまに開けてと言ってるような場所にあったし。」
外からよく箱を見てみると、箱自体も赤と金のとても豪華、もとい派手なもので確かにこれは悪目立ちしている。私としては居心地も良くてお気に入りの箱なのだが。
「もうちょっと地味な箱を選べばよかったですかねえ…でもこんないい箱中々出会えないし……って!?」
先ほどまで自分がいた宝箱を見ていたが、思い出したように突然慌てた顔で男の方へ振り向く。
「そうだ、そうですよ!お兄さんどうしてくれるんですか!?無理やり追い出されちゃっ
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