夢見

ふう、何だか不思議な夢を見たな。

翌朝、今まで味わったことの無い妙な気持ち良さと、どこか自分の体に感じる違和感とともに目を醒ました。 時計を見れば、目覚ましが鳴る1分前、すぐに鳴らなくして、ベッドから起き上がる。 何だったんだろうか、あの夢は? そんなことを思いながら、俺がすぐに視線を向けるのはもちろん、優璃がいるガラスケースだ。

「おはよう、ユリ。」

修理を済ませ、名前も付けたことで、彼女にも聞こえているであろう、本気でそう思って挨拶ができる。 そこには昨晩と何1つ変わらないポーズのまま、優璃がこちらを見ている。 やっぱり、見れば見る程に美しい。 つい見とれてしまいそうになる。

とはいえいつまでもこんなことをしている時間は無い。 さっと朝食を済ませると、すぐに仕事の支度をして、出勤の用意を整えた。

「行ってくるよ、ユリ。」

出勤前に彼女の前に戻って来て、挨拶をする。 修理が終わった時に、これからは彼女への挨拶は欠かさないと決めていた。 そうすれば俺の気持ちが彼女に届くと信じて、もちろん返事なんか来ないのは承知の上だけど。

その日は不思議なことに、仕事がやけにはかどった。 今までうまく行かなかったことが、あっという間に片付いてしまい、上司も驚いていた。 もちろん、失敗と言えるようなものは何も無かった。

「君、今日はずいぶんと好調じゃないか、何があったんだ?」

上司からそう言われても、特にこれというものが無いので、返事に困ったりもしたけれど、まあいいということにしておこうか。

そして仕事が終わり、家に帰ると、まずは彼女に挨拶をする。

「ただいま、ユリ。」

おかえりと言ってもらえないかな、そんなことを思いながら、仕事着から普段着に着替えて、夕食の準備に取り掛かる。 食べ終わって、片付けが済んだら、TVを見る時間だが、ここで俺は、優璃にも見せたいなと思った。

「これから見たい番組があるんだ、一緒に見よう。」

彼女をガラスケースから出すと、膝に乗せて一緒にTVをつける。 不思議と、彼女からかすかにいい香りがしてくる気がする。 香りをつけるようなものなんて、彼女を修理している時にも出ては来なかったし、その後で身に着けさせたりもしていない。 そもそも俺は元来そういう物は持っていないので、そんなことがあるはずは無いのに、どうしてなのかそう思えて仕方が無い。 あの人形店の中は確かに、ほんの僅かではあるがいい香りがしていたけれど、それが残っているとも考えられない。

いつも見ている、お気に入りの番組も、彼女と一緒だと違って見える。 だけど彼女にはどれくらい、この番組のことが伝わっているんだろうか? 見ていて楽しいだろうか? どうしてもそんなことを考えてしまう。 俺が見たい番組を見ているだけではあるが、彼女がそれで楽しいのかは考えずにいられなかった。

そうしているうちに、見たい番組も終わったので、彼女をガラスケースの中に戻して、俺は入浴の用意をする。 もちろん、ガラスを閉める前に挨拶も忘れず。

「風呂からあがったら、また来るよ。」

入浴中、彼女が待っているかと思うと、さっとあがりたい気持ちにもなって来るが、思い直していつも通りにした。 ちゃんとまた俺が来ることは、彼女も知っているのだから、大丈夫だろうと思えば、気にする必要は無いだろう。

さて、あがってからパジャマに着替えて、彼女にまた会いに行く。 なぜだろう、一緒に過ごす時間は、とても落ち着くし、それに楽しい。 彼女がいなければ、とても考えられないことだ。

しばらくそうしてから、ベッドに入る時間になった。

「おやすみ、ユリ。」

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「ねえ、ケンジ。」

またあの声が聞こえてきた。 だけど何でだろうか、昨晩も、この世のものとは思えない程に、美しい声だったけど、今回はそれ以上な気がする。 そしてやはり、声の主が、仰向けになっている俺に乗っかっている気がする。 いったい誰だろうかと思って目を開けてみて、俺は度肝を抜かれた。

「ユリ!? ユリじゃないのか!?」

目の前に見えたのは、どう考えても優璃だった。 これ程の美しさを間違うはずは無い。 しかしなんでだ? 彼女は人形なんだから、動いたりなんてことができるわけは無いんじゃないのか!?

「うん、ユリだよ。 ケンジのおかげで、こうして夢の中でなら、会えるようになったの。」

「それってもしかして、あの大修理をしたからか?」

夢だと言われて、それならまだありそうだと思った。 そして俺のおかげでこういうことができると言われれば、心当たりは1つしか無かった。

「そうだよ。 あのおかげで、こういうことがでいるようになったの。」

「そっか、修理の時にあっちこっち外したけれど
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