村一番のおしどり夫婦が、おしどり(けだもの)夫婦になってしまうまで

 その二人は村一番と評判のおしどり夫婦だった。
 夫の名前はいくま。大柄で体毛も濃い熊のような容姿だが、優しく気のいい男。
 妻の名前はふうか。細い体つきと大人しい見目の、料理も旨く気立ての良い女。
 生活は決して裕福ではなかったが、お互いがいるだけで二人は幸せだった。
 そんなある日。

「それじゃあ、オラは山へ狩りにいってくるだ」
「私は買い出しにいってきますね。今日はお鍋の予定です」
「おぉ、楽しみにしてるだ」

 山へ狩りに行くいくまを見送った後、村の商店で二人分の食材を買っていたふうかは不意に声をかけられた。

「そこのお嬢さん」
「え、私ですか?」
「はい」

 声をかけてきたのは、商店によく通っているふうかでも見慣れない相手だった。店と店の間の地面にござを敷いて座り、そこに様々な品を並べている。

「行商人の方、ですか?」
「ええ。この村には、昨日着いたばかりなんです」
「そうなんですか」
「はい。ところで、買い出しにしてはずいぶん多いですけど、その量お一人で食べるんですか?」
「いえ、旦那様がいるので、二人分です」
「結婚していらっしゃるんですか?」
「はい。とても優しい旦那様です」

 そう言って幸せそうに笑うふうかの笑顔を見て、行商人は感激したように声を漏らした。

「ふふ、すごく幸せそうですね。……よければ、そんな幸せな夫婦にぴったりな商品があるのですが、いかがです?」
「ありがたいのですが、あまり持ち合わせが」
「大丈夫、安くしておきます。ひとまず見てみてください」
「はあ……」

 勧められるまま、ふうかは行商人に差し出された品を見る。それは銀色に光る、質素だが上品な造りをした一組の指輪だった。

「これはエンゲージリング、というものです。ジパングではあまり馴染みがないでしょうけれど、外国だと夫婦が永遠の愛を誓って互いの左手の薬指につけるんです」
「永遠の、愛……」
「ええ。よければどうですか?」

 行商人に提示された値段は、ふうかでも充分買えるほど安かった。何より、『永遠の愛』という言葉に心を惹かれていた。

「……いいんですか?」
「いいです」
「じゃあ、いただきます」
「はい、ありがとう」

 ふうかは指輪を受け取り、嬉しそうに眺めている。

「旦那様によろしく」
「はい」

 機嫌よく去っていくふうかの背を見て、行商人の女は笑みを深めていた。



「いくまさん」
「ん?」

 夕食の後、夫婦の布団を用意していたいくまに、ふうかは指輪を見せる。

「これは?」
「エンゲージリング、というそうです。外国では、結婚のときに夫婦が永遠の愛を誓って互いの左手薬指につけるそうです」

 ふうかは話しながら、指輪の片方をいくまに手渡した。

「あの、それで……私に、つけてくれませんか?」
「……もちろんだ」

 愛する妻からのお願いに、快く頷くいくま。太い指で指輪を掴み、もう片方の手でふうかの左手をとり、指輪を細い薬指に通していく。

「愛してるだ、ふうかさん」
「はい。私も、いくまさんを愛しています」

 そう言って、ふうかももう片方の指輪をいくまの左手薬指に通していく。彼の太くゴツゴツした指にも、不思議とぴったりと合う大きさだった。

「……ふふ」
「ははは」

 互いの指輪を見つめ合い、照れくさそうに、しかし幸せそうに二人は笑う。

「これからも、よろしくお願いしますね、旦那様」
「こちらこそ、末永くよろしくお願いします」

 微笑み合い、二人は同じ布団に入る。軽く口づけ合ってから、眠りについた。

 そして、深夜。ふと違和感を感じ、いくまは目を覚ました。

「ん、ふ……」
「ふうかさん?」

 いくまの腕の中で眠っていたふうかが、顔を赤くして熱い息を吐いていた。寝苦しかったのか、寝間着の襦袢が乱れて胸元が露わになっている。

「ど、どうしただ、気分悪いだか?」
「なん、だか、体が熱くて……」

 頬を紅潮させ、瞳を潤わせて上目遣いしているふうかの艶めかしい雰囲気にあてられ、いくまも顔を赤くし、同時に股間の肉棒が硬くなる。

「あ、いくま、さん……」
「す、すまねぇだ」

 抱き合って寝ているため、今にも襦袢を突き破りそうなほど勃起しているいくまの肉棒が、ふうかのふとももに当たっている。

「いくまさん、私、熱い、です……」

 ふとももを擦り合わせながら、乳房を押し当てているふうか。細い体に見合う程度の大きさしかなかったはずの乳房は、今にも零れ落ちそうなほど大きくなっていた。
 ふうかの急激な変化にいくまが戸惑っているうちに、押し倒されて跨られる。見たことのないその煽情的な姿に圧倒され、いくまは自らの上で衣服を脱いでいく妻の姿をただ眺めるしかできなかった。

「からだが、熱くてたまらないんです
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