榊梨沙はセックスできない!

 とある繁華街の居酒屋、一人の女性が奥のテーブル席で次々とカクテルを飲み干している。サキュバス属特有の形状をした角と尻尾は、彼女がサキュバスであることを示していた。
 彼女がもう何杯目かもわからない度数高めのカクテルを新たに飲み干したタイミングで、同属の角と尻尾を生やしたサキュバス二人がテーブル席に座る。

「ごめん梨沙、遅れた」
「椎名も柚子も、二人とも遅い!」
「ごめんってば」

 椎名と呼ばれた女性が店員に向かって注文を済ませている横で、柚子と呼ばれた女性が声をかけた。

「で、梨沙。すごいハイペースだけど、何があったの?」
「……夏休みにね、彼氏とセックスしようって計画立ててたのよ」
「ああ、あの彼氏?」
「うん」

 椎名の言葉に、幾分か落ち着いた様子の梨沙が頷いた。柚子が無言のまま、仕草で続きを促す。

「ごはん作る名目で、彼の部屋に泊まりに行って。流れで、気づいたらベッドに押し倒されて触られてて。ああ、セックスするんだなあ、って受け入れようとしたタイミングで突然鳴り響く轟音」
「え、何があったの」
「彼のマンションね、高速道路沿いにあるんだけど。その高速道路で大事故があって」
「あ、そういやニュース見たかも」
「たぶんそれ。火の手も上がってて、救急車やら消防車やらパトカーやらが大量にきてて。そんな空気じゃさすがにもうセックスできなくて普通にイチャイチャしてた」

 テーブルのだし巻き卵を箸で摘みながらそう話す梨沙。注文を持ってきた店員にカクテルの追加を頼み、また口を開いた。
 
「それでね」
「あ、続くんだ」
「続くわよ。また別の日に、また彼の部屋に泊まってね」
「うんうん」
「そのままベッドでキスしあって、押し倒されて、盛り上がって来たタイミングで」
「何、彼氏の裸が色気ありすぎて無理ってなった?」
「半裸でも結構ギリギリで鼻血でるの抑えるの必死だったわ、じゃなくて。バイクの爆音が響いたのよ」
「えー」
「マンションの近くが暴走族のたむろ場だったらしくて、ずーっとブオンブオンいってるの、夜中なのに。うるさいったらない」
「あー……」
「音がうるさすぎて、ムードもなにも無くなっちゃって。そしたら彼が服着て外出ていこうとしてて。思わず何しようとしてるのか訊いたら『ちょっと黙らせてくる』って、青筋たててたわ」
「え、まさか殴り込みかけたの?」
「うん。後から雄たけび聞こえて来たわ」
「おっふ」
「おなか減ったから服着て夜食作ってたら、全員ボコボコにして戻ってきて。静かにはなってたけどもうそういう空気じゃなくなっちゃったから、そのまま夜食食べてイチャイチャしてた」
「ねぇ、これ笑っていいの?」
「むしろ笑って?」

 ふてくされたような、やけっぱちになったような笑顔を浮かべて言う梨沙に、柚子も椎名も何も言えずに目を逸らす。

「さらにね」
「待って待って、もうおなかいっぱいだから」
「これが今日の主題なんだから最後まで聞け逃がさない」
「なんでよりにもよって今日の予定空いてたの私」
「諦めて」

 肩を落とす椎名を柚子が慰める。そんな二人を無視して梨沙は続けた。

「今度こそセックスするぞ、って強い決意を固めて海までプチ旅行いってね。昼間はイチャイチャした後、ラブホに泊まって」
「うんうん」
「美容クリーム塗って勝負下着も着て、お風呂も一時間くらい入って念入りに体洗ってアロマもふって準備完了。あっちもすっごい気合入ってたのかお風呂長かったし」
「うんうん」
「キスもして、触り合って昂って、服も脱がせてもらって、ついに邪魔も入らずにセックスできそうだったの」
「うん」
「彼も脱いだのよ。……そうしたら、そこには恐ろしいものがあったわ」
「……なに?」
「ち●ち●が想像より遥かに大きかった」
「……は?」

 その言葉に、椎名も柚子も目が点になる。

「セックスする前に調べてた平均的なサイズとか参考資料とか比べ物にならないくらいのサイズだったわよ! 思わず『タイム!』って叫んだわ!」
「げっほげほ!」
「んっ、ふぅ!」

 梨沙が大声で叫んだ。椎名は大きくせき込み、柚子も必死に笑いをこらえていた。

「げほ、ん、それ、どうしたの?」
「結局びびっちゃってセックスできなかったけどですけど何か?」
「あっはははははは!!」
「ぶっふあははは!!」

 もはやこらえること無く椎名は大笑いし、柚子も噴き出してそのままテーブルに突っ伏して爆笑する。

「え、あいつ悲惨すぎない? 散々逃してた待望の彼女とのセックス、ってところで肝心の彼女からお預け食らったんでしょ?」
「うるさいわかってるわよ! でも無理だったの!」
「ひー、ひー……えっほげほ」
「ええもう、好きに笑って。向こうも一周回ったのかお腹抱えて笑ってたわよ!」

 梨沙はヤ
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