ジパング地方の農村。この村には人間と魔物娘が共存して暮らしている。農村の隅にある山を少し登ったところに、僕は一人で暮らしている。
「今年の米は大丈夫そうかな。少なくとも、去年に比べれば...」
僕の名前は佐助。ごく平凡な農家の一人息子だった...ちょっと前までは。
この山にも、かつては農村があり、お父さんとお母さん、生まれたばかりの女の子の赤ちゃんの4人で、裕福とまでは行かなかったが、それなりに幸せに暮らしていた。
しかし、僕の村で流行り病が起きた。村人達は次々に病に倒れて亡くなり、僕の両親と妹も亡くなった。奇跡的に、僕だけが唯一生き残ったのだ。それは傍から見れば奇跡と思われるかもしれないが、僕自身は「どうして自分だけが生き残ってしまったのか」という辛さと悲しさを背負いながらの生き地獄だとしか思っていない。
その後、魔物娘達がこの地方にやって来て、山のふもとを開拓して村を作った。この村では農作物がよく育ち、活気に満ち溢れている。
そんな村の発展を見て、僕も少し生きる希望を貰えているのかもしれない。
「おかえりなさい。」
「あ、巴さん! いつもありがとうございます。」
家に戻ると、稲荷の巴さんが家に来ており、いろいろと家のことをやってくれたようだ。
この村の人達や魔物娘達は、皆孤児である僕にも優しくしてくれる。特に巴さんは山の入口近くに住んでいることもあって、よく面倒を見てくれる。
巴さんはよく、僕に山を下りてこの村に暮らしたらどうかと勧めるのだが、僕は断っている。この山とこの家は、家族との大切な思い出が詰まった家だから。それに山をちょっと登ったところに広場の跡地があり、そこは僕の家族を含めた村人達の墓場になっている。僕が山を下りてしまったら、いつかこの墓場を綺麗にする人が居なくなってしまうだろう。せめて、僕が生きているうちだけは、この墓場を大切にしておきたい。
巴さんはあわのおかゆを作ってくれた。こうして、巴さんと一緒に夕食を食べているとき、僕は家族で賑わいながら夕食を食べていたことを思い出す。
「佐助君。年貢は納められそう?」
「はい。今年は大丈夫そうです。」
「そう。良かったわ。」
年貢とは、米の収穫の時期に殿様に納める米のことだ。農民は土地を所有する代わりに、農作物を納めなければならない。もし、納められなければ、牢屋に入れられたり、土地や家を差し押さえられたりしてしまう。
去年は凶作になってしまい、年貢が納められず、土地を差し押さえられそうになったが、村の人達が僕の分の年貢を肩代わりしてくれたため、何とか無事に済んだ。
「そうだ! 今度街でお祭りがあるみたいよ。行って来たら?」
「無理ですよ。そんなお金ないですし。」
「ふふっ お金のことは心配しないで。」
巴さんは袖からお金の包まれた袋を取り出した。
「そ、そんな悪いですよ!」
「いいのよ。佐助君、最近街へ行っていないでしょう? たまには遊んできて、美味しもの食べて。」
「で、でも・・・」
「田んぼと墓の掃除は、私がやっておくから。ね?」
「わ、わかりました。ありがとうございます。」
さすがに、笑顔でここまで勧められて断るのも、かえってよくない気がする。僕はお言葉に甘えることにした。
夕食を終えた僕と巴さんは、一緒にお皿を洗って片づけた。
「それじゃあ、今日はもう帰るわね。」
「はい。いつもありがとうございます。」
「困ったことがあったら何でも相談してね。」
「はい。」
「それじゃあ、明日は思いきり楽しんでね。」
巴さんが帰るのを見送って、僕は家に戻った。
夜。この時間帯になると、もうやることはない。あとは寝るだけなのだが、寝るにしては早すぎる。僕はこの時間が一番嫌いだ。
家族と一緒に住んでいた頃は、寝るまで賑やかに楽しくお話をして、寝るのが惜しかったぐらいだが、今は暗い家の中でただ一人、寝つくのを待つだけだ。
明日は街へ行く。街の祭りに行くのは久しぶりだ。
街へは年に数回、両親に連れられて行ったことがある。街には人がたくさん居て、いっぱい建物があって、いろんなお店がある。
そして、街のお祭りはとても賑やかで楽しかった。特に、米を食べられるのは祭りのときぐらいだ。
家族で美味しい物を食べて、歌舞伎や芸を見て...とても楽しかった。気が付けば、ここ何年も街へは行っていなかった。もっとも、行けたとしても、お金が無いから何も買えないし食べれないのだが。
(街へ行くのも久しぶりだなぁ。巴さんには何かお土産を買って帰ろう。)
次の日、僕は巴さんに見送られて馬車に乗り、街へ向かった。
「うわ〜 やっぱり街は凄いなぁ!」
久しぶりの街の空気は、すっかり忘れていた活気溢れる楽しい気持ちを僕に思い出させてく
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6]
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想