長耳なあの子。

ある日の夕方。

担任の先生に頼まれた雑用を終え、荷物を取りに教室に戻ると、先客がいた。

「―――まだいたんだね」


出入り口の近くにある僕の机に置かれている、教科書などが入った鞄を持ちながら、教室の中に残って勉強していたと思われる先客―――エルフの少女に僕は声をかけた。


「・・・なに?」

紅い光が窓から射し込まれ、昼間よりも眩しい夕日に半分染まったエルフの少女は僕を見つめていた、というよりは睨んでいたようにも見えた。
しかし、口調から察するに怒ってはいないように聞こえる。


「別に。ただ、教室を閉めてこいと先生に言われてね。そろそろ教室にでてくれると助かるかな」

エルフの少女の視線に戸惑った表情を出すこと無くやんわりといった。

「あら・・・、待たせてしまったみたいでごめんなさい。少し待ってもらえる?」

彼女は淡々と言いながら、そそくさと教科書を閉じ、荷物を学生鞄に入れ込んだ。

時折、彼女は赤みがかった黄金色のロングヘアーをかき流した。
その際にぴくりと動く、彼女が持つ特別長い耳に僕の心はこれでもかと言うぐらいドキドキしていた。

表面上では何事もなく取り繕っているつもりであるが。


彼女は、エルフという種族では珍しく物静かで、他のエルフのように反感を買うような態度や言動もしなければ、すぐにでも「 や ら な い か 」と誘う淫乱でもない。
そして、同じクラスにいるペドワーフに対して喧嘩することもなく、挨拶を交えるぐらいには良い関係を持っている。


しかし、その分彼女の感情は他のエルフと比べてわかりにくい。
最近仲良くなったサハギンの子と比べれば分かりやすいのではあるが、それでも、ほんわかというべきか、不思議と言うべきか。

そんな雰囲気を出していて今もやや話しかけづらい。


「・・・どうしたの?そんなに私の顔を見て」

ふと、彼女が僕をジト目で見上げていた。怒っているようではないが、不審に思ったに違いない。

「あ、ゴメン。その・・・キミの耳、綺麗だなって・・・見とれていた///」

僕は彼女の突然の問いかけに不意をつかれ、思わず考えていたことを口からポロリとでてしまった。

すると、夕日に照らされている彼女の頬がさらに赤くなったのを確認できた。いや、正確には耳まで赤くなっており、視線の方も僕からそらし、おろおろと泳いでいた。


「ぁ・・・ぁぅ・・・///」

彼女が恥ずかしがっているという確信がとれる、小さな声が聞こえた。

彼女もやはり、一人の乙女だった。
そして、同時に魔物でもあった。

普段の彼女では滅多に見せないであろうその恥じらいは、僕の心を高ぶらせ、手を出したくなるのだ。


「あー、その、ゴメン。先に教室にでて待っておくから―――」

「―――待って・・・っ」

あわてて後ろを向き、教室から出ようとした僕の腕に、細い指が触れ、力弱く掴んでいた。



「・・・ありがと///」



息が詰まり、その場で立ち止まった僕の後ろから、蚊の鳴くような声が聞こえた。

「あー、どうも・・・///」

僕は彼女の方には振り向かないようにした。

ここで彼女を見てしまえば・・・彼女のことを考えず、今すぐにでも抱きつき、キスして、壊す勢いで犯してしまいそう気がしたからだ。

「・・・待たせてごめんなさい」

ガタリと、椅子の脚が木の床を引きずる音が響いた。
しかし、依然として彼女の手は僕の腕を掴んでいる。

捕まれた腕の感覚に集中すると、彼女の手は小刻みにふるえていた。


「あのさぁ・・・。時間の方、大丈夫かな?僕の方は大丈夫、な、なんだけど・・・///」

このまま黙っているのも気まずい。
そう思った僕は、彼女に何気なく訪ねてみた、つもりだった。
しかし、言う最中、口にした言葉の意味に気づき、恥ずかしくなってしまい、うわずってしまった。


「・・・うん///」

彼女も、僕の誘い言葉の裏に潜むやらしい意味をくみ取ってしまったに違いない。

僕の腕を掴む指が、より食い込むように強く握っていたのだから。


そこからは気まずい沈黙が続いた。
しかし、これはこれで、心地良いと思えた。

そんな静かな中で、僕は彼女と一緒にたどり着いた先は、天井のない、コンクリートと金網で仕切られた空間―――学校の屋上だった。


ちなみに閉めてこいと言われたのは何も閉校時間だからという理由ではない。
「学習のための教室」だから閉めてこいと言われたのだ。

どういう事かというと、「セックスを楽しむための教室」は24時間オープンされているのだ。

もっとも、その教室はなかなかに人気でいつも複数のカップルが真っ昼間の授業開始時から今に至るまで、しまいには怪談話のネタができそうな夜中でさえ、元気にあえぐ声が聞こえている。
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