episode2:時計塔の街 前

「……すぅ……すぅ……」

ここは、どこだっけ。
やけに揺れる場所だ……。

「……すぅ……ん、ん〜……」

あぁ……そうだった、ここは馬車の上だ。アイリス……彼の荷馬車だ。
眼は閉じてるのに視界は明るい、日の光を程よく透過して、空気も気になるほど籠らない、中々良い作りで住みやすい荷物台。

「………ぉぃ……」

なんだよ……良い気分なんだ、邪魔しないでくれ……
昨日はあんまり眠れなかったから……もう少しだけ………。

「カグラッ」

ぱちっ
目を開けたカグラは数秒、眼前にあった木箱を見つめていた。
カタカタと揺れる箱と並行してカグラの目線も揺れる、思考を数巡させてから上半身をムクリと起こしてから辺りへ視線を右へ左へ。
アイリスの馬車の荷台。
まだ二日しか過ごしていないし、周りを囲む箱や麻布の中身を知らなくても、カグラはこの荷台を自分の居場所だと認識できるくらいにはなれた場所。
だが眠りに就く前とは一つ違う場所があった。
荷台と御者台をつなぐ境が閉ざされている。
隔たれた布一枚には小さな小窓だけが付いており、その向こう側では男の後頭部だけが揺れていた。

「お、起きたか?」

男の頭が横を向き視線が交差する。

「うん……なんで閉めてるの?」
「そろそろすれ違う人の数も増えてきたからな」
「………あぁ〜……」

カグラは寝ぼけながらも理解した、見た目の事だ。
こんなに可愛い年頃の娘を旅の友に行商なんかしてると、周囲から嫉妬されて大変……。
て訳ではなく、カグラの人外の部分、耳と尻尾。これが他人の目に触れると確かに厄介なことになる。

「ごめん、すぐ変装するわ」
「おーぅ」

そうして「よっこいせ」と若くない掛け声で立ち上がり、背を伸ばし身体をほぐす。毛布を敷いてはいるがやはり床はベッドに比べれば硬く、移動中はどうしても揺れるので身体に響く。
首をほぐしながら、立ち上がる時かけた覚えのない布団を取っ払ったことに気付いた。それを取りたたみながら温かい気持ちに浸る。悪くない感覚だ、思わず口元は笑顔になる。

「目は冷めたか」

術で尻尾と耳を隠したカグラは閉ざされていた布扉を開け、アイリスの隣、御者台の左側へ座った。元は長板の中心に一つだけ置かれていた座布団は、今は左右に赤と青。馬を操り辛くはならないかと聞いたが、「左右にあいたスペースが気になってたんだ、寧ろこっちの方が良い」と、答えになってない返答が返ってきた。良いと言うのだから良いのだろうと、カグラは判断した次第だ。

「んー……微妙」
「そうかい……ほら、飲むか?」

そう言って水筒を渡してきた、ありがたいので受け取る。
飲んだのは唯の水だが、どこかアイリスの味がして……少しおいしく感じられた。

「あんがと、今何時?」
「俺が昼飯食ってから一時間は経ったかな」
「あら、そう……」

そんなに寝てしまっていたか、と少々後悔する。

「まぁいいさ、それよりもほら……あれを見てみろよ」
「?」

そう言って指をさした先に見えた物は

「……ロノウェ」
「そうだ、俺は見習いの時期に一回だけ来ただけだが、やっぱ凄ぇな」
「まぁ……わかりやすいわな」

ロノウェ。
農作と貿易に関しては大陸でも上位に位置する大きな街だ。
その国の主な印象は二つ、道行く人に尋ねてみると大体の人間が思い浮かべる答え、それが「河と時計塔の街」。
半径4、5kmはあるかもしれない、大きな街の中心にイポス河と言う河が流れているのが、大まかな特徴だ。イポス河は上流からロノウェへぶつかる時に3つに別れる、1つは街の中心を流れ、あとの2つは入口から左右に2本、ロノウェを囲うように円を描きながら最終的にまた1つの河になる。
例えるなら紙に丸く円を書き、それに一本線を入れるだけで街の簡単な地図ができてしまう。そんな外観をしているのがこのロノウェ。
その河の恩恵を上流と下流で受けている農家や街の人々が豊穣に、河に感謝を捧げるのがこれから始まるパペール=カリア。豊穣祭だ。
しかしアイリス達が関心を示したのはこの街の形ではない。

「……時計塔か」
「相変わらず、不釣り合いな塔だこと」

街の中心で圧倒的な存在感を放っている時計塔。
元は唯の水門だったものを何のために時計塔にしたのか、そんなことはアイリスもカグラも知らないが兎に角目立つ。
水門としての役割を維持しつつ、安定した建物を建てるには必然的にそのサイズは大きくなる、まだ数キロは離れた場所にいるアイリス達も目を凝らせば時間が解るほどに大きい。

「なんにせよロノウェまでもう少しだが……昨日行ったことは覚えてるか?」
「昨日だけじゃない、一昨日も聞いた」

ロノウェは大都市だ、事前に約束事をしておくことによって余計なトラブルをカット出来るかもしれない。
その5つの約束の事だ
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