新聞、お届けにまいりました〜♪

いい夜だ……
月は真円を描き燦々と輝いていている。
僕は一区切りついた仕事を取りやめ、ランプしか明りのない部屋に降り注ぐ月光と見ようと立ちあがろうとしたとき、

コンッ……コンッ……

ん?

玄関の方向だ
来客だろうか?こんな夜更けに……。
窓辺に向かおうとした足を玄関へと向ける。
木製のアンティーク調のドアの前に立ちのぞき穴へ目を近付ける……と、そこには見知った顔、だがこんな時間に見るのは初めての顔があった。

「ハーピー…さん?どうしたんだい、こんな時間に……」

ドアを開け声をかける

「…………」
「あの、ハーピーさん?」

どうやら様子がおかしい。
顔を覗き込んだ目に映った彼女の表情は何かを我慢しているようで、そして彼の知らない眼をしていた……。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





清々しい朝だ。
鳥の声は楽しげに響き合い美しい音楽を奏でている。

「今日はよく筆が進みそうだ」

目にしみる太陽の光を受けて呟いていた。
僕は小説家だ、故郷であるジパングから飛び出して自然とレンガで造られた家や道を気に入りこの街に住みついたのが3年ほど前。
大陸の言葉づかいに慣れるため、勉強をしつつ暇を見つけて書いてみた故郷を舞台にした物語がヒットし、気がつけばこの年でマイホームを買えるほどになっていた。

と、いっても一人〜二人が住めるような小さなものだが。

今は最初に書いた単発物ではなく、全数巻になるであろう物語を執筆中である。
ファンの方々の次回作を希望する声に感動し、俄然意欲が湧いた青年は筆を走らせる。

そこに

コンッ、コンッ

来客を知らせる音
僕は筆を置き玄関へ向かう。
のぞき穴を見るまでもない、この時間にこの家を訪ねる人は一人しかいないのだから。
一日の始めの、一日で一番楽しみにしている時間。

ドアを開け来客を迎え入れる。

「先生、新聞をお届けにまいりました〜♪」

朝の太陽すら霞む笑顔で微笑む彼女。
僕も自然と笑顔になれる。

「やぁ、いらっしゃいハーピーさん」

僕の、密かな恋心



※※※



空を舞う。
朝、新聞という紙の束を指定された家へ届けるのが私の仕事だ。
親魔物国家に属するこの国では私みたいなハーピーでも仕事ができる。
飛ぶことのできる私たちハーピーにかかれば迷路みたいに入り組んだ道なんて関係ないからねー。
私は朝だけの担当だし楽な仕事もあったものよ
それでいて人間たちと同じだけのお金がもらえるんだから、この街の人たちはほんとに親切だと思う、人にしかできないこともあるし適材適所ってのを分かってるんだろうね。

「さってと〜♪次で最後だぞ〜♪」

気分がはずむ
次は愛しの彼の家
こっちからの一方的な思いだけども……
彼と少しでも長くいたいから、わざわざ遠回りしてまで彼の家を最後にしているのだ。
少し急いで飛べばいいだけだもん。

「あ、見えてきた」

周りに比べたら一回り小さいがこの国には無い独特の風情がある家。
玄関先に降り立つと自然と笑顔になる

今日は何を話そうかな?

ドアを軽くノックして待つ、待っている時間さえ愛しくてたまらない。
少しの間をおいてドアが開く。

「先生、新聞をお届けにまいりました〜♪」

お決まりの口上
これがなくては一日が始まらない

「やぁ、いらっしゃいハーピーさん」

彼が私に笑顔を向けてくれる
なんて幸せなのだろう……。



※※※



「はい、コーヒーを淹れましたのでどうぞー」

「ありがとうございます、ハーピーさん」

自分の家が最後の配達だということで、彼女はよく、というより毎日家に上がっては僕との他愛ない会話に付き合ってくれる。
それももう2年以上になる、彼女といつから家に上がってもらい話すようになったかは覚えていない、それくらいこの午前の一時が自然なものになっていた。
今では勝手知ったる他人の家と言うのか、コーヒーまで淹れてくれるようになった。
これがとてもおいしいのだがいつの日だったか、僕がコーヒーが好きだと言った次の日から僕の好みの味を研究し実験を重ねて、このコーヒーの淹れ方をマスターしたのだ、なぜ彼女がそこまでしてくれたのかは分からないが……毎日僕を喜ばそうと頑張ってくれる姿は涙が出るほどうれしかった

「うん…とっても美味しいよ」

「〜♪」

嬉しそうに見つめてくる彼女の笑顔はとてもまぶしかった。

「えっ!?じゃぁジパングの人は下着をつけないのですか!?」
「あぁそうさ、よくてフンドシやサラシといった一枚の長い布で隠す程度なんだよ、僕は事前に大陸の服装を手に入れてから渡ってきたんだが、あの着物のまま渡ってきたジパングの人はここでは異質だろうね」
「へぇ…びっくりしました
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