「夫婦のダンジョン」の内部。メトとルーシアは、その長い階段を降りていた。
ひたすら長い階段を、二人は敵を警戒しながら歩いていく。敵は一向に出てこない。
二人はそのまま広い空間に出る。その瞬間だった。
「あっ!」
気づいた時にはもう遅い。転移魔法の罠が仕掛けられていた。転移したのは、二人が持っていた荷物。
水や食料、変えの服、松明、その他諸々。
そんな、命綱とも言える荷物達がどこか遠くに転移させられてしまった。
二人はしばし呆然としていたが、
「申し訳ございません、護衛騎士の身でありながらこのような失態を…」
メトがそう言い、頭を下げる。
「そんな、頭をあげてください。私も気づけなかったのですから、それに、私達はダンジョンに入った経験が無いのですから…」
ルーシアは、慌ててメトを気遣う。そもそも、ダンジョンを知らない二人がダンジョンを攻略しようとしているのだ。二人の力が強力だと言っても、難易度が高いことは容易に想像できる。
「幸い、水筒はお互い腰に下げてますし、最悪な状況ではありませんから」
ルーシアは、自分とメトに言い聞かせるように語る。最低限の水があるにしろ、食料を奪われている以上、とても悪い状況である事には変わりない。しかし、自分達はここを攻略しないといけないのだ。
「とにかく、先に進みましょう」
ルーシアは、メトが自責の念を抱えないよう、先への道を促す。二人は、気を逸らすように、歩き始めた。
しばらく歩くと、立て看板があった、二人はそれを読む。
――
夫婦のダンジョン
お互いを想い合っている夫婦であれば、どんな苦難も、どんな困難も、きっと乗り越えていけるはず。
そんな幸せいっぱいな夫婦は毎日愛を確かめあって、永遠に続く愛を紡いでいく。
当ダンジョンは、そんなアツアツラブラブな人たちを応援する事を目的に作られました。
――
メトは困惑した。ダンジョンには似つかわしくないような文言。ダンジョン名にある「夫婦」は比喩の意味ですらないのか?
自分たち二人が指名された事と「夫婦」には何か関係があるのだろうか?頭の中に、色々な疑問が思い浮かぶ。
「夫婦…」
ボソりと呟く。考えても答えが出ない事を、考える。
ルーシアがそれに答えるかのように口を開く。
「ラーラ様と彼女の執事も関係しているのかもしれません。あのお二人、『惹かれ合って』いましたから」
そう語るルーシアの声は、どこか彼女達を羨ましく思っているような、そんな声だった。
それを聞いたメトの脳内に、一つの疑問が生じる。
「自分とルーシアも、また惹かれ合っていると思われているのだろうか?」
思えば、自分とお似合いだと領民に言われた時のルーシアはどこか嬉しそうだった。自分以外が副隊長になる事を拒んだ事も、婚約を拒んだ事も、彼女が自分を好いているから?
いや、ないない。あまりにも証拠が少なすぎるし、第一そんな事は「あってはならない」のだから。
「いずれにしても警戒が必要ですね。魔物達が『交わり』に何故か関心を抱いている事も伺えるような気もしますが」
メトは気を引き締め直す。思えばあの撤退戦の時、自軍の男性兵士は、女性の姿をかたどった魔物と「交わって」いた。この文章とも照らし合わせると、彼らは交わりに対して何らかのこだわりを抱いているのではないだろうか。
捕食手段であるのか、それにより魔力を吸い取っているのだろうか。教団が語っていない事なだけに、色々な疑問と仮説が思い浮かぶ。
「交わり、ですか…」
何かを考えるようなルーシアの声。二人は再び足を進める。
しばらく歩くと、大きな扉が行く手を遮っていた。
中央にその扉に繋がる足場、左右には段差があり、その向こうには水が流れている。そして、水の上にある土台の上に、裸体の男女を象った彫刻が鎮座していた。お互い今にも抱きかからんとしているポーズだ。
そしてまた、立て看板がポツンとあった。
――
夫婦の愛情は深い海の如く。
深い海の底にある愛情、夫婦はそれを再確認する。
互いの愛情を理解する事が、夫婦円満の秘訣。
――
「謎解き、かな?」
ルーシアがそう問いかける。
「そのようですね」
メトはそう言い、頭を抱える。
謎解きにしては実に簡単ではないか、そうメトは考えた。
深い海というのは恐らく左右にある水場の事、そして、底に何らかの仕掛けが存在して、それを二人が押すと扉が開くのだろう。逆にそれ以外の解釈が思い浮かばない。
問題は水の中を潜っていくと言う行為。まず、自分達は鎧を着込んでいる。当然、水に対して特別な効力がある鎧ではない。
そんな装備ではとても泳ぐ事はできない。しかも着替えもダンジョンに奪われてしまっている。下着姿で泳ぐのも、水を下着が吸ってしまって後々動きにくくなりそう。
結
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録