「Flashももう見れなくなるんだな」
僕はそう呟いた。
自慢では全く無いけれど俺はネットにずっと入り浸っていた。ネットには広大な文章が、作品が、感情があった。友人も何も存在しなかった僕は幼少期よりネットに入り浸った。ネットには色々な作品があったし、文章があった。
でも、それらも消えて無くなってしまう。「ネットの記録は残り続ける」なんて誰がそんな嘘をほざいたのだろうか。あの、栄華を極めたFlashだって無くなった。確かに有名な作品こそ映像やらなにやらで残る。でも、自分が本当に楽しんでいた作品。自分が幼少期に触れて楽しんだ、少しマイナーどころの作品は、もう触れる事すらできなくなり、やがてみんなの記憶から消えて無くなってしまうのだ。
Flashだけじゃない。自分が楽しんだ、勇気づけられた創作物。絵や小説だって、書き手の方の都合で消えてしまう。その人たちの都合もあるから責められる立場も義理も無いけれど、でも、自分は寂しくて、しんみりとした気分になるのだ。
「僕も、ああいう作品みたいに、記憶からも、何から何まで消えて無くなってしまうのかな。でもああいう作品と比べることすらおこがましいよね。僕には何も無いのだから」
そう悲しく呟く。自分は誰にも良い影響を及ぼせなかった。誰かを勇気付ける事も、誰かを楽しませる事もついぞできなかった。そんな人生だった。
「僕、消えて無くなってしまってもいいよね。自分の命の代わりに、あの素晴らしい作品群が残せたならば、そっちの方が人類の為だもの」
僕の願いは届くはずもない。そもそも自分の命の価値は、あの素晴らしき作品群に比べて遥かに軽いのだ。
――
年の瀬、街をあてもなく歩く。街の巨大スクリーンにはこの年の大イベントであった東京五輪の選手の活躍をまとめたVTRが流れていた。
あの東京五輪の歓喜も、日本選手と海外選手のしのぎの削り合いも、国籍関係なく大勢の人が入り乱れ熱狂したあの五輪ですら冷めた目で見つめていた自分。心に大きくぽっかりと穴があいたようなそんな自分。世界から取り残された自分。
街の中にさえ居場所のない自分。
現実は一歩一歩その足を進めているのに、自分は同じところで立ち止まっている。あの消えた作品群は自分に「大人になれ」と言っているのだろうか。そんな事を求められるなら大人になんかなりたくなかったのに。なんだかんだで少し楽しみにしていた選手の活躍すらどうでも良かった自分は大人にすらなれてない。周りはみんな大人になったのに、自分だけ子供のまま。
「どーらもー」
有名な曲の歌詞を口ずさむ。元々は曲の空耳だったのが、ある作者の手により肉付けされたもの。この映像の中で、助けを求められたロボットは世界の様々な問題を解決していく。
自分の問題だって、あのロボットが解決してくれないだろうか。でも、その原作で散々助けてもらった主人公だって、立派に家庭を設けているのだ。主人公の彼はとても優しい人間。その優しさすら無い自分のような人間は誰も助けてくれない。それが当たり前なのだ。
「どーらもーおー」
ふと声が聞こえる。すれ違った女性が自分と同じ曲を口ずさんでいた。
「面白いよね、あれ」
彼女は続けてそう僕に言ってきた。
――
「とにかく、ネット上の遺産が為す術もなく消えていくのを僕は嘆いているわけですよ」
「そうだよね。楽しかったものがなくなるって、悲しいよね」
行くあてのなかった僕は彼女に喫茶店に連れられた。彼女は遠いところからこの街にやってきたらしく、僕に色々話してくれている。ネット文化にも程々に精通しているらしく、僕のネット文化の損失が人類の損失であるという持論を聞いてくれた。
彼女からも話をしてくれる。基本は恋愛話だった。情熱的な恋愛、悲劇を救って幸せになった恋愛、クールな二人が結ばれる恋愛。彼女の話はとても面白かった。それに、彼女はとても話し上手。僕の反応を見ながら、じっくりと話をしてくれた。そんな話をお互い飽きずに、飽きずに。気づけば月がぼんやりと浮かぶ。
「ああいうのいいよね、私も恋愛してみたいな」
「きっとすぐに彼氏もできますよ。貴方ならきっと」
これは紛れもない本心だった。そもそも彼女は美人中の美人だし、スタイルだっていい。その豊満な胸を嫌うのは、ぺったんとした胸を好む人くらいだろう。逆にそんな彼女に彼氏がいないのが不思議だった。
「本当に?えへへ、嬉しいな」
「貴方の彼氏はとても幸せ者でしょうね。こんなにいい人なんだもの」
続けてそう言う。笑顔の彼女をご機嫌にさせようと言葉を紡ぐ。彼女の笑っている姿はとても可愛らしかった。
「そっか、じゃあ君は幸せ者だね」
僕は面食らう。彼女(話相手の女性
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