雪原くんと倉前さんの日常

 濃厚な初体験が終わった今、僕たちは一緒に風呂に入っていた。

「いい湯だねー」

 そう呑気に話す倉前さんは、牛の姿のままだった。人間の姿であるとは到底思えないが、かといって牛でもない。牛型亜人と言うべき姿で入浴していた。

 あの激しい行為が終わった後、倉前さんの親が旅行している事を知った僕はお言葉に甘えて倉前さんの家で一晩泊まる事にした。奇遇にも僕の両親も数日家を開けていたので、誰も困ることは無い。

「そういや幼馴染って子供の時は一緒にお風呂に入るって言うけどさ」

 そう話しかける倉前さん。風呂に入っている彼女はまた違う魅力が生まれていた。いつもよりとても大人びたと言うか、お姉さん感が出ていると言うか、お湯でリラックスをしている光景が彼女を変えているのだろう。

「それは誇張されてるんじゃないかな。いくら幼馴染でも性別が違うなら親が躊躇するでしょ。子供の方が良くても」
「それもそうだね、幼馴染物だと定番だからもしかしたらって思ったんだけど、やっぱ違うよね」

 そう言い終わると、倉前さんはニコっと笑いかけてきて、更に話を続ける。

「でも、やっぱり感慨深いなあ、こうして二人でお風呂に入れるとは思っていなかったからさ」
「そうだね、昔から一緒にいたけれど、二人で一緒に入れるなんて、なんか、盲点だったと言うか」

 僕達二人は、相手の姿を見ながら、じっくりと入浴を楽しんでいた。好きな人と入る風呂。狭いけれど、まるで温泉に浸かっているかのような安心感を感じるのだ。

「そうだ、ゆk…渓くんは、魔物の事知らないんだよね…?」
「って事はくらm…澪さんが牛になっているのは、その魔物ってのと関係があるって事?」

 都市伝説で「美人な女亜人がこの星を侵略しようとしている」とか「地球人に愛を教える為魔物がやってきた」みたいな話を聞いた事があるけれど、ただの与太話だと思っていた。でも、目の前の幼馴染はそれと関係があると思うと不思議な気分だった。
 そもそも、受け入れてしまっているけれど、そもそも目の前の幼馴染に耳と尻尾が生えているというのも、よくよく考えれば不思議極まりない。

「うん、詳しく話すね。でも…中々お互い名前で呼び合うのって、なんだか恥ずかしいよね」
「まあ、ずっと名字で呼び合ってたしなあ、今更変えるのも、なんだか慣れなくて恥ずかしいというか」

 そもそも、セックスをしている最中にも、すぐお互いの呼び方が元に戻ってしまっていた。お互いの愛情で押し流される瞬間でも名字呼びが優先されてしまうのだから、名前呼びを定着させるのは大変なように思える。
 お互い少し押し黙った後、倉前さんが口を開く。

「でもまあ、慣れるしかない、のかなあ…」
「かなあ…まあ、このまま名字で呼び合うってのもありかもだし」
「それだと恋人っぽく…ないし、私は名前で呼び合いたいな」

 そう言って倉前さんはじっと僕の方を見つめてくる。僕の大切な可愛い恋人だ。

「うん、お互い最善を尽くさなきゃだね」
「お互いの事を名前で呼び合うのに最善を尽くすのって、なんか面白いよね」

 倉前さんの冷静な指摘に思わず吹き出してしまい、それを見た倉前さんも笑う。
 こういう恋人と過ごす日常の一瞬が、とても幸せに感じた。

――

「というのが、ホルスタウロスの特徴なんだ」
「なるほどなあ…」

 風呂に浸かりながら、澪さんの魔物についての講義を聞いていた。質問をする時「倉前さん」と言ってしまう度に「最善…」と言われてしまう事以外は、特につっかかる点が無くすんなりと理解できた。
 そもそも、目の前にいる牛型亜人姿の幼馴染がすべてを物語っているのだ。常識では考えられない魔物という存在も、彼女の前では現実の物として受け入れられた。
 でも、結局頭の中の印象に強く残ったのは「倉前澪さんはセックスで僕の精を貰ってミルクを出す魔物」みたいな事だけれど。

「澪さん、ちょっと気になる事があるんだけれど、いいかな」
「うん、何?」
「今って母乳が出たりする?」

 僕が食べたクッキーのミルクにも、出された牛乳にも、澪さんが自分の胸から出したミルクが使われていたのだという。そんな事を聞いてしまったら、無性に直接飲みたくなってしまって仕方が無くなったのだ。

「うん、出ると思う。さっきも、いっぱい、せーえきだされたから…」

 澪さんの声がだんだんか細くなった。その代わり、胸をずいっと僕の方に近づけた。

「いっぱい、吸ったり、揉んだり、して…?」

 澪さんは、さっきと同じように何かを期待しきった顔をしている。

「じゃあ、お言葉に甘えて…」

 よくよく考えたら、僕は人生で一回も女の人のおっぱいを揉んだことがない。さっきだって、パイズリされたりセックスしたりしたけど、揉んではいない。
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