今日は、倉前さんの家に行くことになっていた。
二人の仲が元に戻ったあの日から、倉前さんはいつもより笑顔が増えた。
かつてはキビキビとしていた倉前さんが、呑気な雰囲気になり、隙みたいな物が増えている気もした。
彼女は、明らかに変わっていた。
僕と話す時は、だいぶ友好的になった。今までは、クールというか、無口で、僕に好意を抱いているかすらよくわからなかった倉前さんが、今や僕の隙があれば、スキンシップをしてくる。
抱きついてきたり、手を握ってきたり。
倉前さんはあの日、僕と恋人になりたいと話していたけれど。
それでも、いくらなんでも、急に変わりすぎである。幼馴染だからわかるけれど、倉前さんらしくないのだ。
でも、その変化が悪いことかと聞かれると、そうは思わない。
あの日語っていたことから察するに、倉前さん自身が僕とああいうこと、毎日ラブラブしている恋人みたいなことをしたいのだろう。
僕だって彼女のことが好きなのだから、彼女のやりたいことは尊重しなければならないし、それに、嫌ではない。
嫌ではないし、むしろ倉前さんにそう言うことをされるのは嬉しいのだけれど…
そのたびに、倉前さんに欲情してしまうのが嫌だった。
自分が交尾することしか考えていない単純な人間であるということが、それを認識してしまうことが嫌だった。
幼馴染である倉前さんとの関係は、大切にしたいのに。倉前さんが望まないのなら、そう言うことをするべきではないのに。
倉前さんにくっつかれる度に、倉前さんが優しく話しかけてくる度に、
僕の性欲が唸りを上げていくのだ。
最も、昔から性欲処理のおかずにしていたのだから、そんなことを気に病む必要も無く、僕が単純に性欲魔神だったということなのだろうけれど、
今や大切な彼女となった倉前さんに対して、そんな事を未だに考えてしまう僕が嫌で嫌で仕方がなかった。
「こんにちは、雪原くん」
「こんにちは、倉前さん」
いつものように、地味めな私服で出迎える倉前さん。恋人としてはそっけないけれど、僕たちにとっては馴染み深い挨拶をして、彼女の家に入る。
倉前さんの家は、いつもと変わりなかった。整理整頓が行き届いた、いつも通りの風景。通い慣れたあの家。
それなのに、僕たちの関係だけが、少しづつ変化を迎えている。
不思議な気持ちだった。隣にいる幼馴染は、今や僕の恋人である。
この通い慣れた幼馴染の家は、今や恋人の実家ということ。
倉前家の匂いが、倉前さんの匂いが、今や、僕にとって大切な物となっているのだ。
リビングもいつも通り。しかし、ダイニングテーブルにはクッキーが山盛りになっている。
「えっと、私が作ったんだ。お菓子を美味しく作って、それを雪原くんに食べてもらえたらなって」
恋人の特製お菓子。僕の為に作ってくれたお菓子。
「ありがとう。僕のためだなんて、とても嬉しいな」
素直に感謝の気持ちを伝える。僕の為に作ってくれたというのが、とても嬉しかった。
早速手を洗って、椅子に座る。
「飲み物も持ってくるね」
そう言うと、倉前さんは奥へと引っ込んでいく。
冷蔵庫はすぐそこにあるけれど、冷やしてはいけない飲み物なのだろうか。
待っている間は暇だ。小腹が空いている今、目の前でいい匂いを放っているクッキーを食べないわけにはいかないだろう。
山盛りになったクッキーは、全て白いクッキーだった。ミルククッキーなのだろうか。
とりあえず、山のてっぺんに鎮座していたクッキーを一口いただく。
「美味しい」
濃厚なのに、くどくない。それが第一印象。後から仄かな甘味とコクが広がって、それが口の中の余韻となる。
もう一口、もう一口。
たくさん食べても、クドみが出ない。飲み物はまだ来ないけれど、それでも延々と食べていられるクッキー。
この山のようになったクッキーも、あっという間に完食することができそうだった。
「おまたせ〜」
夢中になって食べている頃、飲み物が届く。ミルクだ。クッキーに使われている物と同じだろうか。
「ありがと。このクッキー凄く美味しくてさ、先にいっぱい食べちゃった」
「やった!こちらこそありがとう、雪原くんの為に作ったから、遠慮せずに食べちゃってね」
倉前さんは、僕の目の前に座って、ニコニコと僕を眺めている。
机に置かれたミルクも飲む。クッキーの材料と恐らく同じだろう、病みつきになりそうだ。
「美味しいな。美味しい美味しい」
まるで口癖のように連呼しながら、僕は飲み食いをしていた。
「本当!よかった〜」
倉前さんは、顔を赤らめて嬉しそうにしている。
その屈託のない笑顔を見ているとこっちまで嬉し
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