高2の夏、金曜の授業が全て終わり、俺は帰り支度をしている。
「おーい、タケルー!どっかメシでも食いに行かね?」
いつもつるんでいる友達から誘いを受ける。
「悪い、今日はちょっと用事あるんだ」
「そっか。あっ、もしかして彼女?」
「バカっ!ちげーよ!」
「またまた〜。俺らには内緒で誰かと付き合ってんだろ?みんな噂してるぜ」
このこの〜と肘でつつくジェスチャーをする。
男子共は何かにつけて女関連の話をしたがるから困る。
面倒なこと極まりない。
「だから、そんなんじゃないって!俺、もう行くからな!」
ニヤニヤするそいつを置いて、そそくさと学校を出た。
今年は猛暑で外はうだるような暑さだ。
ここは地方の田舎町で、俺が通っているのは町内に唯一ある高校だ。
この町の若者たちが遊ぶスポットは限られている。
一応、ゲーセンやバッティングセンターなどの娯楽施設もあるが、どれも規模は小さい。
電車一本で隣の都市部にも行けるので、学校帰りにそこまで繰り出す奴も少なくない。
だが、俺がこれから行く場所はそうした所ではない。
学校近くの本屋で立ち読みして、いくらか時間をつぶしてから、自転車で町のはずれの方へ行く。
やがて、いかにも場末の雰囲気がするスナックやバーなどが立ち並ぶ区画にある目的地にたどり着いた。
“鬼ヶ島カラオケ”
看板の文字は色あせしていて、外壁の塗装も所々ハゲている。
ここは町内にある数少ないカラオケ店だが、市街地には他にも全国チェーンの店が何軒かある上に、学校から結構な距離があるここまでわざわざ来る奴はそういない。
周囲に知っている奴がいないか一度確認してから中に入った。
店内に入るとカウンターの中から眼鏡をかけたアオオニの女性が一人出てきた。
「あら、タケル君いらっしゃい」
「こんにちは、アオイさん」
彼女は高校3年の先輩、アオイさんだ。
まさに鬼と聞いてイメージするような、トラ柄の布を胸と腰のみに着けている。
毎度のことながら、アオイさんのナイスボディを前に目のやり場に困る。
「相変わらずイケメン君ねぇ〜」
「からかわないでくださいよ」
「今、アカネ呼ぶからね」
「あ、別に呼ばなくても….」
「アカネちゃーん!タケル君来たわよー!」
「はーい!お、タケルン来たか!」
奥からガタイの大きなアカオニの女子が出てくる。
クラスメイトのアカネだ。
俺を見ると、屈託のない笑顔を見せた。
「ああ、今日お前バイトだから来てやったぞ」
アカネはこの店でバイトしていて、仕事が入った日にはいつも俺に来てくれと頼んでくる。
「そんなこと言って〜、ほんとはアタイのこの姿を拝みに来たんだろ?」
アカネがふざけてモデルの様なポーズをとってみせる。
彼女もアオイさんと同じ露出度の高い格好をしているが、その姿は完全な別物だ。
胸はアオイさんより大きいが、そのかわり腕や太ももは一回り以上太く、身長は俺よりわずかに高い。
一言でいえば体のあらゆるパーツが全てデカい。
俺はあまりアカネの体をはっきり見ないように視線をそらす。
「アオイさん、今日は2時間でお願いします。それと奥の部屋空いてますか?」
「ええ、空いているわよ。12番の部屋でいい?」
「はい、大丈夫です」
「わかったわ。そしたら、これ持って行ってね」
アオイさんから伝票とマイクの入ったカゴを受け取ると、さっさと部屋へ向かった。
「あっ!なんだよー!無視かよー!」
アカネが後ろで叫ぶが、俺は完全スルーで進んでいった。
部屋に入ると、壁の少々おどろおどろしい絵が目に入る。
手書き感満載の鬼ヶ島の鬼たちとそこに向かう桃太郎一行が描かれている。
テーブルとイス、そしてドアもゴツゴツとした岩を想わせる装飾が施されていて、店内の照明はほんのりと赤い。
色々と雰囲気は出そうと頑張っているのは伝わるが、何となく全体的に安っぽい。
(今日も客、全然いないみたいだな….)
部屋へと向かう途中で歌声は全く聞こえなかった。
俺は苦笑いしながら椅子に座り、とりあえずメニューを開いた。
プルルルル、プルルルル,,..
メニューを見ていると、部屋の受話器が鳴った。
ガチャ
受話器を取る。
「はい」
「つうれねぇーな、ハハハン!つうれねぇー..」
ガチャン
アカネの声だったので切った。
椅子に戻り、またメニューを見ることにした。
コンコン、ガチャ
その後、程なくしてノック音と共にドアが開き、アカネがお盆を持って入ってきた。
「ノリ悪いぞ、タケル〜ン。不機嫌なのか?」
アカネが不満そうな表情をしながら、水の入ったグラスとおしぼりをテーブルに置いた。
「別にそんなことねーよ。注文していいか?」
「あいよっ!」
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