わし、バフォ様

ぼくは目の前の暗闇をぼぅっと見つめていた。
外では雪が降っている。
どうしたらいいのかわからず、ひざをかかえて途方にくれていた。
あいつらの顔を思い浮かべるだけで、ゆううつな気分になる。
学校には行きたくないけど、ずっとこのままでもいられない。

「うぅ….お母さん…ぼく..」

自分が情けなくて仕方なくて、このままどこかに消えてしまいたい。
だんだん目に涙が浮かんできていた。




「おぉ〜〜い」

ふいに横の方から女の子の声が中にひびいてきた。
突然だったので体がビクッとする。
ぼくに向けて呼んできたみたいだけど、気のせいかな。

「おぉ〜〜い、こっちじゃよぉ〜!聞こえんのかのぉ〜〜!?」

たしかに女の子がぼくを呼んでいる。
ぼくは訳がわからなくて混乱した。
ぼくに話しかける女の子なんて誰もいないはずなのに….。

「こっち向いてたもぉ〜〜!!わしじゃよぉ〜〜!!のぉ〜〜う!!?」

自分を“わし”なんていう子は知らなかったけど、思わず声のする方を向いた。
暗闇の外に頭に変なものをつけた女の子が、こっちをのぞき込んでいた。
雪の降る中、ほっぺを赤くそめている。
ぼくと目が合うと、うれしそうにブンブン手を振った。

「おっ!気づいたかのぉ〜!?そんなとこで何してるんじゃ〜?」

「………」

「わしもそっち行っていいかのぅ〜〜?」

知らない女の子に『いいかのぅ?』と言われても困る。

「じゃ、そっち行くからの〜〜」

「え!?」

返事も待たずに彼女はこちらに向かってきた。
かがみこんで入り口に入ると、ハイハイしてぼくの方へ向かってくる。

「んしょ、んしょ…ひぃ〜狭くてひんやりしとるのぅ〜」

ぼくはただ“ぽかん”と彼女を見つめていた。
彼女はずんずんと進んできて、すぐにぼくのとなりまでやって来た。

「ふぃ〜着いたぞ!」

「……」

「お主、こんな所でガッカリしてメソメソしてどうしたのじゃ?」

「...別に何でもないよ」

「何でもないことないじゃろぅ?あと…すまぬがそのかばん、ちょっとどかしてくれんかの?」

「え?」

彼女はぼくのランドセルを指さした。

「となりに座りたいからのぅ」

「はぁ..」

しょうがなく、自分の左横にあったランドセルを右側に移した。
すると、彼女はぼくのとなりにぴたっとくっついて体育座りした。

「よっこらせっ….ふぅ..それでお主、何かあったのかの?」

「あぁ..まあ、うん….」

「話してくれんかの?」

「え…いやでも…..あの..君はだれなの?」

「あ!そういえば、名乗ってなかったのぉ!すまんの、わしはバフォ様じゃよ」

「バフォ・サマ?外国人?」

暗くて良く見えなかったけど、それでも彼女の顔は日本人ではなさそうだった。

「ちょっと違うのぉ。わしは魔物なのじゃ」

「へ!?魔物!?」

「うむ、魔物じゃ。見たことないかの?」

「学校では違う学年でいるけど、話したのは初めてだよ」

「おお〜そうじゃったか!なら、わしと話せてよかったのぉ!!」

「そうだね..」

話をしながら彼女をよく見ると、頭についていたのはぐるっと曲がっている角だった。
本物みたいだ。

「わしのことは好きに呼んでいいぞ」

「それじゃあ…バフォちゃんって呼んでいいかな?」

「ふむ、かまわんぞ!お主のことも聞かせてくれんかの?」

「うん,,,」


ぼくは素直に自分のことを話した。
ぼくの名前は比野 伸太(ひの しんた)で○○小学校に通っていること。
学校の勉強は全然できなくて、スポーツもダメで“ある二人”にいじめられていること。
それを話すとバフォちゃんは怒りだした。

「いじめじゃと!?それは許せんのじゃ!!それでお主はここにこもっていたわけじゃな!?」

「うん…でも、ぼくもドジでのろまだから、いじめられてもしょうがないのかなって..」

「そんなことはないのじゃ!いじめをするヤツが悪いに決まっているのじゃ!いじめなんてするヤツはトントンチキのスカポンタンじゃ!!」

「え?トントンチキ….何それ?」

「しょーもないヤツってことじゃ!」

「へぇー、ふふっ何かおかしいね」

「うむ!おかしな連中じゃ!」

彼女の言葉がおかしくて笑っていると、ちょっとずつ元気になってきた。
でも、やっぱり学校には行きたくなかった。
今から行ってももう遅刻だし、そうなると先生に怒られてしまう。

「はぁ〜、学校行きたくないよ…。どうしよう….」

「う〜む、そうじゃのぅ…伸太は甘い物は好きかの?」

「うん..好きだけど?」

「そうかの!それじゃ、手を出すのじゃ!」

「え?何で?」

「いいから、ほれほれ!」

「う、うん」

手を差し出すと、彼女は上着のポケットをゴソゴソして何かを取り出した
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