町から少し離れた、ぼろい家で俺は畑仕事をしている。
鍬を打ち、雑草を引っこ抜いて今日の作業は終了だ。
地味な作業だがなかなか疲れる。
もうすっかり日は暮れて、辺りは夕日に染まっている。
さて飯にしようかと腰を上げると、畑の先にある小さな木箱が目に付いた。
(はて?あんな物は昼間にはなかったはずだが……)
と、しばし考え込んでいると木箱がゴソゴソと動きだした。
驚いて箱を凝視すると、ピタッと動きを止めた。
よく見ると、箱には小さな細い穴が開いていて、中から俺を見ている者がいる。
あの箱の大きさからして,中に大人が入るのは無理だろう。
となると相手は子供か….さてはいたずらか?
どうやら子供が俺をからかっているようだ。
町からそれなりに離れている所だというのに、物好きな子供がいたものだ。
まあ、もう遅い時間だしほっとけば帰るだろうと、俺は箱を無視して家に戻ることにした。
箱に背を向け歩き始めたら、
タタタタタタッ
背後から足音がしてきた。
そして、次の瞬間
ズボッ
「アッーーーーー!!」
突然、肛門から全身へ凄まじい衝撃が走った。
俺はその場に崩れ落ち、尻を抑えて悶絶する。
一体なにが起きたというんだ!?
苦しみながら何とか身をよじって後ろを向くと、くノ一らしき格好をした小さな女の子が立っていた。
両手を組み人差し指を突き立てて、俺を見下ろしいる。
「これで“あんさつ“完了でゴザル!さあ、ご飯をよこすでゴザル」
これが俺と丸との出会いだった。
あの後、俺を襲ってきた謎の子供は、有無も言わさず俺の家に上がり込み、当然のように飯を要求してきた。
無論、俺は追い返そうとしたが全くこちらの話を聞こうとせず、しかも言うことを聞かないなら、またさっきのことをすると脅してきたのだ。
それから散々言い合いをしたが埒が明きそうになかったし、俺ももう面倒になってきたので、とりあえず言う通りに飯を食わしてやることにした。
囲炉裏のそばで俺は謎の子供と座り、晩飯の汁物を食べる。
使われている食材はすべて俺の畑からとれた自慢の野菜だ。
子供の話によれば、彼女は人ではなく、魔物で“クノイチ“という存在らしい。
噂には聞いていたが、実際に見るのは初めてだ。
腰からはひょろひょろと尻尾が生えており、子供のくせにやたら淫乱な格好をしている。
ただ、胸に膨らみは全くなく、背丈も俺の腰くらいまでしかない。
長い髪は頭の後ろで結ばれていて、顔はよく見ると意外と可愛い。
「….ったく、なんで俺がいきなり浣腸してくるヤツに飯をやらなくちゃいけないんだ」
俺は愚痴りながら、彼女のお椀に野菜汁を注ぐ。
「もぐもぐ….おぬしは拙者に“あんさつ”されたのだから仕方ないのでゴザル。言うことを聞くのでゴザル」
「なんだよ暗殺って….。暗殺したヤツの家でどうして飯を食うんだよ?」
「クノイチは“あんさつ”した男と一緒になるのでゴザル。それがクノイチの教えでゴザル」
彼女は胸を張って誇らしげに語る。
「何じゃ、そりゃ…。忍びの里とやらではそんな教えをしているのか?」
「そうでゴザル。母上から教わったでゴザル」
「…よくはわからないが、とにかくクノイチは暗殺した男の家で飯を食うというわけだな。それで、その暗殺とやらをなぜ俺にしてきたんだ?大体お前まだ子供じゃないか。暗殺ってのは、普通もっと大人のクノイチがするものじゃないのか?」
俺がそう聞くと、彼女は突然うつむき黙り込んでしまった。
「おい、どうしんたんだよ?」
「…おぬしも拙者を子供あつかいするのでゴザルか?」
「え?」
「母上も同じでゴザル……。拙者がまだ子供だからと忍法もぜんぜん教えてくれないし、“あんさつ”もまだ早いと言うでゴザル」
「まあ、それはそうだろうな…。お前、まだ年端も行かないじゃないか」
「もう子供じゃないでゴザル!どんな木にも登れるし、ひとりで厠だって行けるでゴザル!」
彼女は頬を膨らませて、俺をきっと睨みつける。
「….つまり、あれか?お母さんとケンカでもして家出してきたのか?」
「そうでゴザル。男を“あんさつ”して母上に立派なクノイチとして認めてもらおうと思ったのでゴザル。それで里の山を下りて男をさがしていたら、一人でさびしそうなマヌケ顔の男がいたから、そいつを狙ったわけでゴザル」
「誰が間抜け顔だ!!….でも、そういうことなら俺を暗殺して一応目標は達成できたというわけだよな。それなら明日、里に帰ってお母さんに報告すればいいじゃないか」
とにかく彼女が帰ってくれるのなら、俺は暗殺されたことにされようが何だろうが、もうどうでも良かった。
「う〜ん….その予定だったのでゴザルが、おぬしでは手ごたえがなさすぎて、何だか不安になってきたのでゴザル….」
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