戦いのあと

 暮れなずむ夕陽に照らされる中、男達は緊張した面持ちで待ち受けていた。集落で若い頑健な男達だけが表に出て、他の者は家の中に篭っていた。張り詰めた空気の中で聞こえるのは篝火が発する火音と男達の息遣いだけである。
周囲を急ごしらえの柵で囲ったこの小さな集落は、まさに戦々恐々としていた。男達は待ち受けるものが現れるだろう小高い丘を固唾を呑んで見つめていた。有り合わせの武器を各々が手に持ち、じっと息を凝らした。




 この時に先立つこと半月ほど前、複数の集落の代表者達が集い、ここ最近の不可解な出来事について話し合っていた。近隣のある集落の住民全員がある日、忽然と姿を消したのだ。代表者達は自分たちが持つわずかな情報と現場の状況から、これが魔物の仕業であると断定した。話し合いの結果、まずはそれぞれの集落を防衛し、必要な時は互いに力を合わすことを取り決めた。

代表者の中にジェイクという若い男がいた。彼は年こそまだ若かったが、精悍で責任感が強く人望がある男だった。ジェイクは集落に戻ると皆に集会での内容を伝え、急いで防衛の柵を協力して立てた。さらに彼はいざという時の心構えを住民達に説いた。
彼は付近の集落が力を合わせればこの危機を乗り越えられると信じ、皆にもそう言い聞かせていた。だが、魔物達の侵攻は想像以上に早かった。瞬く間に残っていた集落は姿を消し、最後に残ったのはジェイクの集落だけとなった。

いよいよ次は自分たちの番である。隣の集落が姿を消した翌日、丘にいた見張りが隣の集落があった方角から魔物の群れと思われる影を見た。ジェイクは腹を決め、男達を集めた。
彼らは家庭を持たない若い男達で戦闘経験は皆無だっだ。それでもジェイクを中心に集落を守ろうと団結していた。

臆する心を押し殺して彼らはじっとその時を待った。
そして、ついにそれは訪れた。


「来たぞ!」

ある者が叫んで丘を指差した。
彼の指差した先に小さな人影が見えた。
たちまち男達に緊張が走る。

人影は次々に増え、やがて十数人ほどの数になった。その者達は集落を見下ろす形で横に並んだ。夕日に照らされ、オレンジの色彩を帯びた姿があらわになる。それは人間の女のようであった。

「あれが魔物…、女なのか?」

ジェイクはやや困惑した様子でつぶやいた。

「ジェイク、俺たちどうなっちまうんだ?」

他の男がジェイクに不安そうに聞いた。

「何が来ようとやるしかない。みんなでここを守るんだ!」

ジェイクは弱気な質問者に静かに力強く答えた。

丘に立った魔物達は、全員が屈強な体つきをしていた。浅黒い肌をして自然にウェーブのかかった癖のある髪を風にたなびかせていた。腰と胸以外は露出しており、肌には刺青のような紋様が見えた。見た目はほとんど人と変わりはなかったが、耳の尖った形状が彼女達が人外の存在であることを物語っていた。

彼女達は見晴らしの良い所で歩みを止めると集落を静かに見下ろした。そして男達に視線を走らせた。一人一人を品定めするように見ている。緊張状態にある男達とは対照的に彼女達は悠然としていた。ただ、その息遣いは微かに荒かった。


やがて集団の中心にいた一人の魔物が前に進み出た。彼女は息を吸い込むと地平線まで聞こえそうな轟くような声を出した。

「人間達よ、よく聞け。私達は誇り高き戦士アマゾネスだ。私は族長ゾマの娘アネス。今宵、お前達を我らの一族へ迎えるためにここへ来た。男どもは我らの婿に、女どもは我らの同胞となるのだ」

男達は姿を見せた魔物達の姿とアネスという若いアマゾネスの言葉に困惑したが、このアネスという者に見入っていた。彼女の顔貌にはまだ成人前の未成熟な雰囲気を感じたが、同時にリーダーを勤めていると思しき風格がすでにあった。そして、彼女の堂々たる姿から溢れる覇気に男達は圧倒された。
そのような勢いを感じさせるのはアネスだけではなかった。彼女の後ろに並んでいる他のアマゾネス達も劣らぬ存在感を放っていた。彼女達はまだ若く、成人のアマゾネスと比すれば経験は劣っていた。しかし、彼女達の中に流れる魔物という人外の血が生み出す烈々としたオーラが、男達をすっかり呑み込んでしまっていたのだ。彼女達の佇まいは、自身の存在を見せつけるかのように自信に満ち満ちたものだった。


「恐れることはない。お前たちを傷つけたりなどしない。無駄な抵抗はやめ、おとなしく服従した方が賢明だぞ」

アネスの低く落ち着いた声が響く。

男達は互いに顔を見合わせた。どういうことだと皆が混乱していた。ジェイクはただ一人状況を理解しようとしていた。今まで消えた集落には争ったような形跡はあるのに、死体はおろか血痕すらもほとんど残っていなかったという話を彼は聞いていた。それらの情報とアネスの話を聞いて、彼は考えを巡らせ
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6]
[7]TOP
[0]投票 [*]感想
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33