深夜の屋敷。4人の使用人が厨房室の前で息をひそめていた。
「ベロベロペロペロ…」
部屋の中からは何かを舐めとる音が聞こえる。
「お楽しみ中のようね」
4人の中で先頭にいるメイド服を着た女性が静かにつぷやいた。彼女はメイド長である。
「いい?私が合図したら躊躇せずにすぐにその拘束具を着けるのよ」
メイド長が後ろにいるメイドに静かに耳打ちした。指示を受けた彼女が緊張した面持ちで頷く。手には両手を拘束する腕輪が持たれている。その隣には首輪の拘束具を持った者もいた。どちらにも魔法の紋章が刻まれており、そこには強力な魔法がかけられている。
「失敗は許されないわよ……」
メイド長が厨房のスイングドアをわずかに押して中を伺う。照明が点いていないため室内は暗いが、奥の方で大きな冷蔵庫が開いており、そこだけわずかに明るかった。冷蔵庫の光に照らされた何者かが地べたに座っているのが見える。
「ペロペロペロペロ……うぅぅ
#12316;ん♪」
「今よ!!」
メイド長の声とともに4人が一斉に中に雪崩れ込んだ。
ダダダダダッ
カチッ
照明のスイッチが押され、厨房全体が照らし出された。音の主もはっきりと姿を現す。
「デビッ!?」
その者は目を丸くし顔は驚きに満ちていた。小さなお腹はぽっこり膨らんでいた。
「はぁ
#12316;、またサービス残業か…」
仕事が終わり、僕は家路についていた。電車の駅を降りてトホトボと自宅近くの公園に入る。
「ふぅ
#12316;」
花壇の前のベンチにドサッと腰を下ろして缶コーヒーを飲む。仕事終わりのつかの間の休息だ。
「今月、残業何時間だろ」
意味もなく1人で呟いて星空を見た。少しだけど光る星が見える。こんな風に夜空を見つめるのがすっかりルーティンになっていた。
「綺麗だな」
“……こっち…デ…”
「えっ?」
不意に何か聞こえた気がした。あたりを見回すが夜遅く誰もいない。
「とうとう幻聴まで聞こえたか。こりゃヤバいな」
“……ない…ビ、……来るデ…後ろ……”
「んん?後ろ?」
また聞こえてきた。少女と思われる声が脳内で直接響くような感じだ。かすかだけど後ろと聞こえた。立ち上がり後ろの花壇を覗き込んでみた。近くに木立があり影になっているので暗い。
「う
#12316;ん」
良く目を凝らすと奥の方に何か箱の様な物が見えた。
「あれか?」
もしかしたら音を発するおもちゃでも入っているのかもしれない。花を踏まないように慎重に足を踏み入れて箱に近づくと、それは小さな木箱だった。紋様みたいな装飾が施されている。上は開いており中が見えた。そこには高級感のあるタオルが敷かれていて、体がくるめられている人形が置いてあった。タオルから顔が出ている。
「これは…デビル?」
魔物娘のデビルだ。僕はその存在を良く知っていた。包んでいたタオルから人形を出してみると、それは精巧な出来であることが見てとれた。翼と尻尾が生えており、青白い肌に赤い瞳、そして小柄だけどちょっぴりムチムチしていて何ともハレンチな格好をしていた。
「すごいな、これ」
手に触れると質感も見事な作りようだった。翼や尻尾、肌の部分を触ると実際に生き物に触れているような感触がする。肌の部分はプニプニで気づいたら僕は夢中になって触っていた。
“えっちデ…”
「えっ!?」
また脳内に声が聞こえた。今度はさっきよりもはっきりと聞こえる。しかも僕の行為に対して言っているようだ。
「嘘でしょ」
“…持ってか…デビ”
「持って帰る?」
そう言っているようだった。突然の出来事に僕はビビっていたが、それ以上にこの人形の不思議な魅力に惹かれていた。
「……」
周囲を確認すると僕はサッと人形を鞄に入れて足早に帰った。
(持って帰ったはいいけど、どうしよう……)
帰宅してから人形の声が聞こえない。
やっぱり幻聴だったのだろうか。
「何とか言わないの?」
何となく人形を眺めながら一人呟いてみた。
“ザー…るぶっ…るデ…”
「ん?」
突然あの声がまた聞こえた。
ザーじる……けるデビ
「ザーじる?ザー、じる…汁、ぶっける……むむ!?」
何やら良ろしくないことが頭に浮かんだ。”まさか”である。
「あのー、ザーじるってザー汁?もしかして…ザーメン…だったり?な、なんてね!」
ちなみにこんなことが頭に思い浮かんだのは日頃からそういうことばかりを考えてるからとかではない。断じて違う。だけど、とりあえずこの謎の人形の秘密を解き明かさなくてはいけない。というわけで恐る恐る聞いてみた。
“デビッ!”
元気な声が聞こえた。
「マジか…」
どうやら”まさか”だったらしい。何ということだろう。
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