春。それは新生活の季節。新たな環境と新たな出会い、そして新たな1年の始まり。というわけで私、ピクシーのリンも今春から1人で暮らし始めることになったのです。
さて、引っ越しで必須なのが隣近所へのご挨拶。しかし私としてはただ「よろしくー」で終わるのでは面白くない。せっかく4月は1日、エイプリルフールなことにかこつけてかわゆいウソをつくことにした。
で、思いついたのがフェアリーを騙ってみるというネタ。「人間はフェアリーとピクシーをよく間違えるらしい」というのは数ある話の種のひとつだからだ。まったく、こんなことを言いだしたのはどこの誰なんだか。たしかに妖精の国ではピクシーもフェアリーもなく一緒に過ごすことは多いけど、見た目から全然違うし。ツノとか……あー、耳とか羽は似てるコもいるけど、でもツノは見りゃわかるでしょ。目立つし。
服とか髪とか家とかお菓子とか、あんなに見た目にこだわる人間がツノのあるなしもわからないわけない。「フェアリーです」って挨拶したら、「うそつけピクシーじゃん」「ばれたー!あははは」みたいになるはず。
てなわけで、隣の部屋のチャイムをポチッとね。
「はい、どちら様ですか?」
「今日から隣に引っ越してきたんで、挨拶にきましたー」
インターホンから声がして、少ししてからドアが開く。出てきたのはもうお昼近いのに眠たそうにしてるおにーさん。
「こんにちは!隣に越してきたリンだよ! 種族はフェアリー、よろしくね!」
「わざわざどうも。こちらこそよろしく」
反応なし。流された?
名前はリョータとか、学生だとか、自己紹介が進む。でも私のウソへのツッコミは全然なし。わざと反応しないなら性格悪いなーと思うとこだけど、そんな雰囲気もなし。
「……あれー?」
「ん? 何か?」
いっこうにツッコミが来ないので首を傾げると、おにーさんも不思議そうな顔をする。
と、その時。グレートな私の脳みそに電流が走り、この状況を説明できるナイスな理由を思いついた。そう、このおにーさんはピクシーとフェアリーを知らない! だから私がフェアリーって言えば、それがおにーさんの初フェアリーになるワケ。だから「おめーピクシーじゃねーか」のツッコミがこないのも仕方ない。うん、完璧な推理。さすが私。
「ねー、おにーさんって私が初めて会ったフェアリーだよね?」
私がおにーさんのハジメテ……いやん。お隣だし、もしかしたらそういう展開もあるかもね、うふふのふ。
「いや、フェアリーの知り合いは何人かいるよ。よかったら紹介しようか? 仲間がいると心強いだろうし」
なん……だと……? フェアリーの知り合いが何人もいるのに、見分けがついていない……?
いやいや、おちけつ私。妖精には私も含めていたずら好きが多いんだ。きっとこのおにーさんは「みんなでフェアリー名乗って騙してやるぜ」なピクシーの集団と知り合いなんだろう。やれやれ、身内のこととはいえやり過ぎはよくないよ。
「あー、その……ゴメンね。実は私、フェアリーじゃないの。ピクシーなの」
「え? ピクシーって?」
「いやほら、エイプリルフールだし、ちょっと冗談でも? って軽い気持ちで……ゴメン」
「べつにかまわないけど、なんで?」
「人間はフェアリーとピクシーをよく間違えるって言うからさ、そんなわけないと思って。ほら、ツノ生えてるでしょ? フェアリーにはツノないんだよ」
「あ、ホントだ。そういえばアイツらはツノ無かったな」
ちょいちょいと頭に生えた2本のツノを指さすと、おにーさんはちょっと驚いたような顔をした。
でも私はもっと驚いた。だってそうでしょ? おにーさんの知り合いはいたずら好きなピクシー集団じゃなく、まごうことなきフェアリー集団だった。気づかないの!? こんなに堂々と違うじゃん!? わざわざ指ささなきゃ気づかないほど小さくないでしょこのツノ!?
……その日、あたしは人間の目はけっこう当てにならないものだと知りました、まる。
だから、入学式からフェアリー扱いされても落ち着いて訂正できました。
私、ピクシー。フェアリーじゃないよ(泣)
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