「ん……?」
ニースがぼんやりとしたまま目を開けると、魔界の濁った空が見えた。
まだ意識がはっきりしないため、五感は働かず、体は動かず、頭も回らない。
(僕は……やられた、のか?)
記憶もはっきりしない。
魔界に入った後で何があったのか、なぜ自分がこうして倒れているのか?
そんなことを考え出す程度に頭が動き出してはじめて、妙な感覚に気付いた。
柔らかいものを打ち付けるような音。
下腹部に重み。
そして、鈍い……快感?
「!!!?」
「んっ……ふ、はぁ、あら、やっとお目覚め?」
ニースは一気に覚醒し、頭を上げた。
その直後、艶っぽい声が彼に降ってくる。
そして彼は見た。
自らの下腹部に跨がり、腰を上下させるサキュバスを。
そして彼は知る。
そのサキュバスを貫いているのが、自らの男性器だということを。
――聖騎士であり、妻もある自分が、魔物と交わっていることを。
「あ、あぁ……ああああっ……」
「そんな怯えた顔しないでよ……気持ちイイでしょう? ほらッ」
「ああ……っ!?」
締め付けがキツくなり、性器への刺激が増す。
その快感にうめき声をあげるニースに満足げな笑みを向け、サキュバスは腰をグラインドさせる。
しかし。
「誰、がっ……貴様など、に……」
「もう。我慢なんてしなくていいのに」
ニースは堪え続ける。
とうの昔に射精していてもおかしくないというのに、彼は驚くべき精神力で堪えている。
サキュバスはそれにやや不満げな様子で、なお激しく彼を責めたてる。
「ぅあ、あ、ぐ、ひあっ!?」
「あはっ、大きくなってきたわね。そろそろご馳走してくれる?」
それでも、容赦なく続く責めにニースの快楽は否応なく高まっていく。
膣内で彼が張り詰め、震え始めたのを感じ、サキュバスは舌なめずり。
「レ、ノア……レノアぁ……」
「レノア? なぁに、恋人? それとも……」
そう言いながら腰の動きは止めずに、サキュバスはニースの左手に目をやる。
すでに鎧を剥がされたその薬指には、慎ましやかに輝く指輪があった。
「へぇ。あなた、奥さんがいたのね。……じゃあ、その奥さんもいずれ私と同じサキュバスにしてあげるわ。そしたら3人で楽しめるものね?」
サキュバスは怪しく笑い、ニースの顔を覗き込む。
(レノアを、魔物に……だと……?)
その言葉は、ニースの耳にこれまでになく響いた。
そして、サキュバスの魅了と快楽に堕ちつつあった彼の意識は、完全に覚醒した。
「うおああああああぁ!!」
「きゃあっ!?」
ニースは勢いよく上体を起こし、そのままサキュバスを突き飛ばした。
同時に、彼の性器もサキュバスの中から解放される。
周囲を見渡せば、彼の剣は近くに転がっていた。
彼は素早く立ち上がるとその剣を拾い、サキュバスへ向けて構える。
「まったく……強情っ張りなのねぇ。なら、これでどう?」
サキュバスは不機嫌な表情でゆらりと起き上がると、ニースに手のひらを向けた。
魔法か何かが飛んでくるのかと警戒したニースだが、何も起こらない。
「……どういうこと?」
それに困惑したのは、仕掛けたサキュバスの側だった。
それもそのはず、彼女が放ったのは強力な魅了の魔法だったのだから。
目には見えず、簡単な魔法防壁くらいならすりぬける。
だからこそ避けようがなく、直撃したのは間違いないはず。
なのに、ニースは変わらず彼女に敵意の視線を向け続けている。
「うおおおおっ!!」
「! しまっ――」
そしてその動揺をニースは見逃さなかった。
鎧を脱がされていたがゆえの身軽さでサキュバスに斬りかかる。
サキュバスは反応が遅れ、そして、彼の斬撃を避けることはできなかった。
風切り音に続いて、液体が地面に落ちる音。
「くそっ!」
「はあっ、はあっ、はあっ……」
剣を振り切ったニースは苦々しげに上を見る。
そこには傷口から血を垂らし、息を切らしつつ空中に浮くサキュバスの姿。
「残念……だけど、今日はここまでみたいね……」
「待てっ!」
ニースの叫びもむなしく、サキュバスは傷口を庇いながら翼をはためかせて去っていった。
「くっ……」
しばらくサキュバスが飛んでいった方向を睨んでいたニースだが、やがて周囲に散乱していた服や鎧を身につけ、歩きだした。
* * * *
部隊壊滅の報告が入った数日後。
広場では犠牲となった騎士たちを悼む集会が開かれていた。
そしてその集会も、もうすぐ終わろうかというところ。
集会の最後に行われるのは、彼らが旅立っていった方角に向かっての祈り。
そのために、人々は広場から門まで列を成して歩いている。
その列の中には、手向けの花を手にしたレノアも混じっていた。
(ニ
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