翌朝。
フレックは意味もなく部屋の中を行ったり来たりしていた。
眉間にはシワを寄せ、イラついたオーラが全身からほとばしっている。
「……まだ来ねぇ……」
朝、目覚めたフレックは何よりも先に違和感を感じていた。
布団や衣服が乱れているわけではなく、部屋の中にもかわったところはない。
窓からは朝日が差し込み、外からは朝市だろうか、街の喧騒が聞こえてくる。
何もおかしなことなどない。
そう、まったく何も。
それこそが、彼が感じた違和感。
シリアに付き纏われるようになって一月と少し、彼に平穏な朝などなかった。
彼女が部屋に侵入してくれば、その物音で目覚めて即撃退。
気が張って侵入前に目覚めれば、侵入してきたところを撃退。
彼の一日は、毎朝(性的に)襲いかかってくる彼女を撃退するところから始まっていた。
それは、たとえ彼が彼女を凹ませた翌日でも同様だった――今日までは。
だからこそ、彼は何とも言えない気持ち悪さにイラついているのだ。
「あ゙あ゙あ゙っ!!」
髪をぐしゃぐしゃと掻きむしり、天井を見上げる。
そのまましばらく固まっていたのだが――。
「……クソッ!!」
二本の刀を腰に挿すと、ドタドタと部屋から出ていったのだった。
※※
「今回のは、これまででも指折りですぜ」
「ふむ、それは楽しみだな」
暗い廊下を、二人の男が歩いている。
一人は髭を伸ばした恰幅のよい大男、もう一人は眼鏡をかけた身なりのいい男。
大男がカンテラを持って道を照らし、眼鏡がその後に続く。
「さ、どうぞご覧くだせえ」
やがてある扉の前で立ち止まると、大男はそう言って扉を開く。
そこは、廊下と同じく暗い、独房のような小部屋だった。
4メートルほどの高さに小さな窓はあるものの、入る明かりは少ない。
「ほう……」
「へへへ、上モノでしょう」
中を見た眼鏡は感嘆の声を漏らし、大男は下卑た笑いを浮かべる。
彼らの視線の先、暗い部屋の中には、
「〜〜〜!! 〜〜〜!!」
さるぐつわをされ、手足を縛られたシリアがいた。
臆病者ならそれだけで殺せそうな、殺意に満ちた目で男たちを睨みつけている。
じたばたともがいてはいるが、縄は堅く縛られており、とても抜けられそうにない。
「いかがですかい?」
「そうだな、なかなかの素材だ」
「へっへ、そいつぁどうも」
その時、シリアの尻尾が床を叩き、バシィと大きな音が部屋に響く。
その音に眼鏡はわずかにビクリとし、大男は不満そうに眉間にシワを寄せる。
が、すぐに不機嫌そうな顔に苦笑いを被せ、眼鏡に向き直った。
「まあ、気性の荒さは大目に見てくだせえ」
「なに、それは問題ない。むしろそのほうが楽しめるというものだ」
冷静さをつくろうかのように襟を正しながら、眼鏡が息を吐いた。
「気の強い女を堕とすことほど楽しいことはない……ってか」
大男がやや軽い口調で言えば、それを侮辱ととったのか眼鏡が彼を睨みつける。
「おっと、失言でしたかね」
「ふん……まあいい。これが今回の分だ」
ポケットから眼鏡が袋を取り出し、大男に渡す。
「毎度どうも」
大男は袋を開け、その中身、金貨の枚数を確認する。
確認が済むと、眼鏡に向かって軽く頭を下げ、カンテラは置いたまま扉を閉めて部屋を出ていった。
「さて……」
眼鏡は懐から布を取り出し、シリアに近づいていく。
そして、その布を彼女の口元に押し付けた。
「〜〜〜〜!!!」
「くっ、この……」
振り払おうと必死に抵抗するも、だんだんとその動きは鈍くなり、やがて全身から力が抜けていく。
眼鏡はそんな彼女を仰向けに寝かせ、さるぐつわを解いた。
「ふふ……」
「貴、様……何をした、っ」
「なに、ちょっとした麻痺毒ですよ」
続いて彼が取り出したのは、小さなナイフ。
刃を上に向けて持つと、空いた左手でシリアの服を浮かせる。
「な、まさかっ……やめろ!!」
眼鏡のやろうとしていることに気がつき、シリアは必死に叫ぶ。
しかし、眼鏡はむしろその声をきっかけとしたようだった。
嗜虐的な笑みを浮かべると、彼女の服を縦に切り開いた。
「くう……見るなっ、見るなぁ!!」
服が裂かれたことで、その胸の双丘と、鍛えられ締まった胴が露になる。
屈辱的な顔で叫ぶ彼女に、眼鏡はますます口の端を吊り上げる。
「まだまだですよ、次はこちらを……」
そう言って、眼鏡がズボンに手をかけようとしたそのとき。
バァン!
部屋の扉が勢いよく開かれた。
入り口に立っているのは、真っ黒なマントを着た人物。
フードを深くかぶったその顔は、暗がりとあいまって全く見えない。
「な、何者――」
眼鏡が言葉を発しようとすると
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