時間は少しさかのぼる。
レイスとエジェレがMake Loveしていたころ、同じ屋根の下での出来事。
* * * *
「ねーシベル、何かしたー? ドア越しじゃ何も聞こえないんだけど〜」
少し前にエジェレの部屋の方へ消えていったクチナが、不満げな顔で戻ってきた。
「やはり出歯亀か……。どうせ行くと思ってな、魔法で封鎖しておいた」
「なんてことしたのよ〜! あの、隙間から漏れ聞こえるピンク空間がイイんじゃないの〜!」
久しぶりに杖でめった打ちにしてやろうか。
いったい何が嬉しくて我が子の密事を覗かねばならないんだ。
というか、そもそもの問題として。
「……本当にうまくいくのか?」
「きっと大丈夫よ。薬は飲ませたんでしょ?」
「まあな」
私は手にした小瓶を持ち上げ、軽く振って見せる。
レイス君に出した紅茶には、この小瓶の中身、赤い錠剤を溶かしておいた。
あの茶葉は滅多に飲まないのだが、匂いが強いことや色が紅いことは、コレを溶かすにはうってつけだった。
ジャオさんからもらった説明書によれば、人魚およびにサキュバスの血、エキドナの抜け殻、ドラゴンの鱗の粉末など、名だたる貴重な材料からできた薬らしい。
その効果も凄まじく、身体強化、寿命延長、精力増強に精質上昇、とある。
――また、買った店の店主からジャオさんが聞いた話によると、副次的な効果として『飲むと自分の気持ちに素直になれる』だそうだ。
「……本当なら、こういったものに頼りたくはないのだがな」
「そりゃそうだろうが、しゃーねーぜ。いつまでもウジウジしてるレイスの奴が悪ぃんだ、っつーことにしときな」
「はあ……」
私のつぶやきに、テーブルを挟んだ斜向かいに座るジャオさんが答えた。
一応は隣人なのだが、普段からずっと外出中のこの人とはほとんど交流がない。
そのうえクチナ同様の変人なものだから、未だに気後れというか、慣れない。
私にとっての男性像はトーマスが基本なのに、この人はまったく違うタイプだし。
「だいたい、それは『素直になる』だけで、無理矢理サセるわけじゃないわよ♪」
「だな。興奮作用とか媚薬とか、そういう効果はわざとつけなかった、って店主は言ってたぜ」
それが、私がこの計画に乗った理由の一つ。
この薬はあくまでも服用した者の『本心』を増幅するもの。
つまり、レイス君の行動は彼自身の意思に基づく。
それなら、発情期にも堪えて彼の自由意思を尊重してきたエジェレも納得できると思った。
……いや、所詮それも自分を正当化するための言い訳。
結局、私もあの二人に早く一緒になって欲しいだけなのだ。
「でもよ……ヤらねぇと死ぬとまで言われて見殺しにしたら、俺ぁアイツを殴り飛ばすぜ」
「そうよねぇ。もともと、体調を崩したエジェレちゃんの看病に行かせれば、イイ雰囲気になって勝手にスると思ったんだけど……」
そこで、クチナは私のほうを見た。
その表情は、これまでにもたびたび見せた真剣なそれだった。
というかこの二人、先程の私とレイス君とのやり取りを聞いていたのか。
「ねぇシベル、さっきの話、どこまで本当なの? エジェレちゃんが具合悪いのは、私が渡した魔力減衰薬のせい? それとも……」
クチナが切羽詰まった表情、なのに私には余裕がある。
それがどこか可笑しかった。
今までそんなことは一度も無かったからな。
「まあ、半分は本当だな」
深刻そうな演技をするのも面白そうだったが、それはあまりに意地が悪いのでやめておいた。
心の余裕そのままの、気楽な声が口から出て来る。
「あの子の魔力容量が少ないのと、魔力を作る能力が普通より弱いのは、本当だ」
「それだけでもうかなり危ないと思うぜ? いいのか?」
ジャオさんもまた、クチナと同じく真剣な様子。
性格は違ってもやはり親子、ということなのだろう。
その表情は、私が話をしたときのレイス君にどこか似ていた。
「大丈夫。精を補給する薬を飲んでいるのも本当だが、効かなくなったなんてことはない。今あの子の調子が悪いのは、間違いなく減衰薬の効果だ」
嘘をつくのが苦手というわけではないが、やはり気持ちのいいことではないし、きまりが悪い。
ごまかすように紅茶のカップをとり、一口すする。
と、クチナがジト目(珍しい)を向けてきた。
まったく、本当にいつもと立場が逆転しているな。
「本当に?」
「本当だ」
「本当の本当に?」
「しつこいぞ」
「なーんだ。まったく、けっこう本気で心配したじゃないの」
クチナは背もたれに体を預け、ん〜、と手を上へ伸ばす。
「でも、なら何の問題もなさそうね?」
「レイス君が手を出さない、ということがなければな」
「それはないわよ。レイスだってエジェレちゃんを助けたい
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