「……ん、ぁ?」
レイスが目を覚ますと、見慣れぬ天井が目に入った。
自分のものではない呼吸音に顔を横に向ければ、エジェレが穏やかな顔で眠っている。
「……ああ、そうか。そうだった」
行為はあの後も延々と続き、レイスは4回戦から後は数えるのをやめた。
というよりは、そんなことを考える余裕がなかった。
「ったく、さんざん搾りやがって。枯れたらどうするつもりだ」
「ん……すぅ……」
不満げに言いながらも、エジェレの寝顔にレイスの表情も緩む。
彼は彼女の頭に手を乗せ、起こさないようにそっと撫でた。
「幸せそうな顔しやがって……。こんなのが嫁で大丈夫かよ、俺?」
レイスがそう漏らした瞬間。ぱちり、とエジェレの目が開いた。
「……え?」
「ふふっ、聞いたぞ」
「なあッ!?」
「任せろ。主婦の勤めは完璧にこなしてみせる。家事はもちろん、おはようのキスから夜の営みまでな」
呆気にとられるレイスをよそに、エジェレは彼の腕に抱きつき、鬼の首を取ったと言わんばかりのしたり顔でレイスに迫る。
「ふふふふふ。なあ、式はいつ上げる? 子供は何人欲しい? ああ、二人の愛の巣も見つけなければな。忙しくなるぞ♪」
その瞳はキラキラと輝き、喜びに振られる尻尾がぱふんぱふんとシーツを叩いていた。
「……はぁぁ……」
レイスはため息をつきながらも、腕に感じる重さと暖かさが心地よかった。
そう感じる自分を自覚して、さらにもう一つ嘆息し、目をつぶる。
(もう完全にオチてんな……俺)
「わかってるよ、責任は取る」
「むぅ、言い方に愛がないぞ。まるで嫌がる君を襲ったみたいじゃないか」
「じゃあ何だ。『物心つく前からずっと好きだったんだー』とか『好きなんてもんじゃない』とか言えばいいのか?」
「言ってくれるのか!?」
ものすごい勢いでエジェレが食いついた。
その目が。表情が。イヌミミが。尻尾が。彼女の全身が、期待感に溢れていた。
(……やべ)
つい迂闊な冗談を言ってしまったことを、レイスは後悔した。
彼女にはその手の冗談が通じないことはわかっていたはずなのに、気が緩んでいた。
「そういや、もう身体の調子は大丈夫なのか? やたら元気だけど」
「ん、ああ。今はかつてないくらいに絶好調だ。これも君の精を受けたおかげだな。体に力が満ちている」
精。
強引に話題を逸らした先で現れたその単語に、シベルに言われた言葉がレイスの脳裏をよぎった。
『いまさら言うまでもないが、エジェレはレイス君、キミのことが好きだ。そして、私たち魔物の身体は、心の底から伴侶と認めた相手に対してのみ特別な反応をすることがある』
『こんなことを言うのが卑怯なのは承知している。それでも、補給薬が効かない今……キミが、キミだけが、エジェレを助けられるかも知れないんだ』
(……とりあえず、元気にはなったみたいだな)
自分が安堵の表情を浮かべていることに、レイスは気付いているのかどうか。
「精、ねぇ」
「子種でもいいぞ? ふふ、子供のもと……私たちの赤ちゃん……♪」
エジェレは視線を自らの下腹部に向け、そこを手でさする。
そこにあるのは、レイスとの行為前と変わらない、ほっそりとくびれた胴。
しかし、彼女はソレを確信しているかのような、幸せそうな表情だった。
「一発命中とか……え、マジで?」
「さぁ、わからない。でも、今できなくともいずれはできるさ。そうだろう?」
満面の笑みと共に投げ掛けられる、反論しようがない質問。
意訳すれば、『今後も、できるまでたくさんエッチするぞ♪』といったところだろうか。
「ぅ……まあ、それはそうだろうけど」
魔物を妻にすれば、当然夜の営みは人間のそれ以上の役割――魔力の補給という面を持つことになる。
まして彼女の体質を考慮すれば、その頻度が平均より多くなることは自明だった。
「しかも、お前だからな……」
「? どういう意味だ?」
「お前、魔力弱い体質なんだろ? 俺は相当ガンバらなきゃな」
「な……ッ!?」
レイスにはエジェレを責めるつもりで言ったのではなく、事実、その口調も刺々しかったり冷ややかだったりしたわけではない。
むしろ彼としては冗談のつもりで、からかうような軽い口調だった。
にも関わらず、彼女は目を大きく見開き、その顔から血の気が失せた。
「お、おい? どうした?」
「どう、して。君が、それを……?」
「なんでって……シベルさんに聞いたんだけど」
「……そうか、母様が……」
ついさっきまでの笑顔が嘘のような、沈んだ表情。
あまりの落差に、レイスは面食らった。
彼には、なぜ彼女がそんな顔をするのかわからなかったから。
「……たしかに、私は魔力が普通より弱いらしい。魔力が足りなくなる
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