エジェレの部屋に入ったはいいものの、レイスは生涯でも有数の(緊張感的な意味で)ピンチに陥っていた。
「お、お前の部屋に入るの、久しぶりだな」
「そうだな……」
………。
「ケホッ、ケホ」
「おい、大丈夫なのか?」
「っ、ああ、心配いらない……」
「そうか……」
………。
(……気まずい)
沈黙の中、レイスは背中を冷や汗が落ちていくのを感じた。
彼はドアを後ろ手に閉めた状態のまま、部屋の入口に突っ立っている。
ベッドの上には、上体を起こし、肩で息をする寝間着姿のエジェレ。
その服は乱れ、息は荒い。
ともすればそういう状態にも見えたが、顔色の悪さがそれを否定していた。
「そんな所に、ケフッ……立ってないで、座ったらどうだ?」
かすかに震える手でもって、エジェレは自らのベッドの端を軽く叩く。
「あ、ああ」
レイスはようやくドアノブから手を離し、一歩を踏み出した。
目線をあちこちにやりながら、そのくせエジェレの顔を見ないようにしながら、ベッドへと近づく。
そして、示されたスペースに、彼女に背を向けて腰を下ろした。
「レイス」
「なんだよ」
「来てくれて、ありがとう」
「いや、別に……」
………。
「ああ、もう!!」
レイスはやおら立ち上がると同時、何かを振り切るかのように叫んだ。
そのまま180度回転してベッドに上がり、エジェレへと向き直る。
突然のことに目を丸くする彼女の肩を掴み、半ば叩きつけるようにその体を倒した。
「無理してんじゃねえ! 寝てろ!」
「あ、ぁぅ……」
エジェレは珍しく口ごもる。
その理由、一つは完全な不意打ちであったこと。
もう一つは、言葉は乱暴ながら彼女を心配する内容であったこと。
そして、最後の一つは。
「レ、レイス……この体勢は……その……」
ベッドの上。
エジェレの肩を掴み。
その上に覆いかぶさるように。
「……なんか俺が押し倒したみたい……ってか、押し倒したのか」
しかし、レイスは赤面こそすれど、慌てる様子はない。
エジェレはそれに違和感を覚えた。
普段の彼であれば、「わああ!?」とか言って彼女から離れようとするはずだから。
そのことが、彼女に淡い期待を抱かせる。
(まさか、レイス……ついに。ついに……抱いて、くれるのか?)
「……おい」
気がつけば、レイスの顔はすぐ近くまで迫っていた。
もう少し彼が屈めば、鼻が、そして唇が触れようかという距離。
「な、なんだ?」
「お前な、この手は何だ?」
レイスは自分の首に巻き付いたものを指差す。
エジェレ自身も意識しないうちに、その両腕は彼の首にまわされ、その体を引き寄せていた。
「え……オッケーのサインでは、なかった、のか?」
「ったく、こんなときまでかよ……」
そうしてレイスのついたため息すら、距離の近さゆえにエジェレには肌で直接感じることができた。
「あ、ぅあ、ああ……」
これまでにないほど近くにレイスを感じながら、エジェレは気付いていた。
自らの身体が、心が、本能が、どうしようもなく彼との交わりを望んでいることに。
その情欲の炎が、自らを律する理性の糸をじりじりと焼いていることに。
そして、自分がこの飢えた身体を抑え切れないだろうことに。
「レイ、ス……ダメだっ、私……もうっ……」
レイスはエジェレに覆いかぶさったまま、目を閉じて黙り込み、考える。
寝ろとは言ったものの、彼女の症状は寝ていればどうにかなるものではない。
ならば今、彼女に必要なもの、彼女が何よりも望んでいるものは。
彼女のために、自分にできることは。
「……いくぞ、エジェレ」
ちゅ。
「――っ!?」
初めての、レイスからのキス。
それは、エジェレが実に十年以上に渡って求めてきたもの。
彼が彼女を認め、受け入れ、求めてくれたという、何よりの証明だった。
エジェレの身体は、彼女が意識的に動かしたというよりは、勝手に動いた。
首にまわしたままの腕でレイスを抱き寄せ、離れられないようにする。
彼女が舌を出して彼の唇をつつくと、彼も口を開いてそれを受け入れた。
「んふ……む……んちゅ……」
エジェレの舌はゆっくりと丁寧に、レイスの口を這いまわる。
その動きは、まさに彼を味わっているかのように。
彼の唇を、前歯を、歯茎を、一分の隙もなく犯していく。
「ぁは……」
そしてエジェレの舌は、とうとう対になる相手を探り出す。
レイスが遠慮がちにそろそろと突き出したそれを、彼女は巧みに絡め捕った。
「じゅるっ……ちゅ、んく……」
絡み合った舌を伝い、レイスの唾液がエジェレへと流れ込んでいく。
だが、それだけでは足りないとばかりに、彼女は彼の舌を吸いこむようなそぶりさえ見せた。
「
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