「あー、暇だー……」
晴れた昼下がり、オレは小川のそばの芝生に仰向けに横たわっていた。
(ぱしゃぱしゃ)
青い空、白い雲。そよ風に乗って、草と土の匂いが鼻をくすぐる。
(ぱしゃぱしゃ)
オレは寝転がったまま、首だけを持ち上げてパシャパシャ音の原因に目を向けた。
そこにいるのは、一人(?)のサハギン。
透明感のある淡い青色の髪は長く、立てば腰くらいまである。
手足は鱗に被われ、指と指の間には薄い膜が張って水掻きになっている。
そんな彼女は今、小川の水面に浮かび、流されない程度のゆるーいペースで背泳ぎ中。
どこに焦点があってるのかわかりにくい大きな瞳で空を見上げている。
(くるん)
こちらの視線に気付いたのか、向こうも顔だけ回してこっちを見てきた。
顔の右半分が水に浸かってるけど、水生魔物だからたぶん平気だろう。
(じーっ)
瞬き一つせずに見つめてくる。
たぶん、アレは「こっち来て」の視線だ。なんとなくわかる。
周りの連中には "愛コンタクト”とか言われるけどな。
オレは立ち上がって、川べりに歩いていく。
(すいすい、ざぱあっ)
すると、彼女も岸まで泳いできて川から上がった。
(ぶるぶるぶる)
「うわっ!?」
と、彼女は突然犬のように体を震わせ、水を切る。
当然、すぐ近くにいたオレは飛んできた水滴に直撃されるわけで。
「あーもー、ビシャビシャじゃねーか」
(びくっ)
水を吸った布地をひらひらさせると、彼女は怯えたように後ずさる。
「別に怒っちゃいねーよ。ほれ、相手に悪いことしたらどーすんだ?」
(……ぺこり)
「よしよし」
(にこにこ)
素直に謝ったので頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細めた。
「できれば、最初から気をつけてくれるといいんだけどなー」
(あうあう)
そのまま頭を押さえ付けてわしゃわしゃと髪を掻き回すと、手をじたばたさせて逃げようとする。
ある程度楽しんだので解放してやると、恨みがましい表情を向けられた。
(……じとー)
「はいはい、悪かったよ」
オレは地べたに腰を下ろし、あぐらをかく。
彼女を手招きして、組んだ足を叩いた。
オレの脚の上は、彼女のお気に入りのスポットらしい。
とりあえず、それで機嫌を直してもらおう。
「どーぞ、お姫様」
(にこっ。とてと…ぴたっ)
「ん? どした?」
(おどおど、おたおた)
案の上、彼女は笑顔になって寄ってきた。が、途中でその足が止まる。
彼女はオレの濡れた服を見て、まだ体についている水滴を慌てて払いだした。
「いーよ別に。どうせ濡れてんだ、変わりゃしないって」
(きょとん)
「ほれ、いいぞそのままで。それともヤメにするか?」
(ぶんぶんぶんぶん!)
おー、すげぇスピードで首振ってる。おもしれー。
(とたたた…、くるっ、ぴょん、とすっ)
走ってきて、こっちに背を向けてジャンプ。
彼女の体はきれいな放物線を描いて、オレの脚の上におさまった。
背中を俺に預け、ぐりぐりと後頭部をこすりつけてくる。
ひんやりとした彼女の体の冷たさが、なんだか気持ちよかった。
(くるっ)
しばらくして、彼女が首だけ振り向いた。
オレも彼女を、というかその瞳を見る。
こんなにいろいろと訴えかけてくる瞳なのに、どうして他の奴らにはわからないんだろう。
オレも最初はあんまり分からなかったけど、今じゃ一目でだいたいわかる。
だからこそ、オレはあえて首を傾げてみせた。
(おずおず)
すると、彼女は手を伸ばしてオレの手首を掴んだ。
そのままそれを、自分のお腹へと持って行く。
珍しく、視線だけでなく行動にも移してのお誘いなので、オレも乗っかることにした。
その柔らかい胴を、心いっぱい抱きしめる。
(ふにゃ〜)
彼女の表情が緩むにつれて、オレの脚にかかる重みが増す。
なんでも、完全に脱力した体は自分で自分を支えるのを放棄するから重くなるらしい。
まあ、そんなことはどうでもいいや。
(にへ〜)
笑顔の彼女が、かわいいから。
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