「むう……私はいったい何をしているのか……」
植え込みの影から様子を見つつ、私――シベル=ラムセスは呟いた。
「子供たちの様子を見てるんでしょ?」
今更なに言ってるの、と笑う彼女はクチナ=キャプトル。
私の隣人にして友人、そして、変人。変人である。大事なことなので(ry
「いや、だからなぜ隠れる必要があるのかと。私たちは母親なのだから、そんな必要はないだろう」
そう、私たちはあそこで遊んでいる子供たちの母なのだ。
堂々と見守って何が悪いことがあろうか。
「今日ばかりは、そうもいかないのよ」
「どういうことだ?」
「それは、ヒ・ミ・ツ♪」
まったく、なんなのだ?
む、あの子たちはなにやら言い争いをしてるようだ。
(やっぱり、やまがおっきすぎたんだよ)
(そんなことないもん)
頬を膨らませて言ってから、エジェレは口を押さえ、言い直した。
(……そのようなことは、ない)
「なに? あなた、あの口調に矯正してるの?」
「いや、そういうわけでもないのだが」
私がこんな口調なのは、夫と出会うまで遺跡で番人やってたからで、別にこだわりはない。
エジェレにも、普通の女の子と同じように話せばいい、と言ってはいるが……
(あはは、おばさんのまね?)
「おばっ……!」
思わず立ち上がりかけたのを、隣の彼女が阻止してくれた。
ガサガサと音を立ててしまったが、バレていないだろうか。
「はいはい、いまさらそんなことに反応しなーい」
「済まない……レイス君はいつもは名前で呼んでくれるので、つい」
「子供なりに気を使ってるのよ。だってあなた、実年齢は私の母親よりも」
かちこん。
「……痛いじゃないの」
「なんなら、マミーにでもなってみるか?」
思いきり睨みつけてやると、クチナは「いえ結構です」と小さくなった。
「あーあ、やっちゃった」
クチナのその言葉通り、トンネルが開通したばかりの砂山は崩れ落ちた。
レイス君……詰めが甘いぞ。
エジェレはゆっくりと立ち上がり、なにやら言っている。
そんな娘に、レイス君は額を地面にこすりつけて謝っているようだ。
「なんか、将来の二人が見える気がするわ……」
「まったくだな……む? なんだアレは……指輪?」
エジェレがポケットから指輪と何かを取り出す。
それに反応したのは、隣のクチナだった。
「しっ……今よ、この瞬間のために私たちは今ここにいるのよ」
彼女が珍しく真剣な顔なので、指示通りに口をつぐむ。
そして、聞こえてきたのは。
(わたしと、けっこんして)
「プロポーズktkrーー!!!」
「待てえぇぇえどういうことだ説明しろーーーっ!?」
隣ではしゃぐ変人の胸元を掴む。
なんで突然プロポーズだ!? というかまだあの子たちは5歳なのにっていやそうじゃなくて!!
「ちょっと前にね、エジェレちゃんに相談されたのよ。レイスとずっと一緒にいるにはどうしたらいいかって。可愛い悩みよね♪」
「それで、結婚すればいいとか吹き込んだということか」
「ご明察♪」
ちょっと待て、私はそんなこと聞いてないぞ。
この変人の方が母よりも気安く相談できるのか、娘よ?
だとすると……結構なショックだな、これは……
「えっと、エジェレちゃんが出したのは私が渡した指輪とアンクレットね」
「……よもや、呪いか何かの類いがかかっていたりはしまいな」
この女ならやりかねない。
「……フフ♪」
かちこん。
(うーん、じゃあね……おとなになったら!)
(おとな?)
(うん。けっこんはね、おとながするものだから)
(おとなになったら、けっこんしてくれるのか?)
(うん!)
まあ、エジェレのプロポーズは妥当な結果に終わった。
あのアクセサリーも、つけることなくポケットにしまわれる。
隣のクチナは舌打ちをしていたが……帰ってきたら没収して解析せねば。
と、その時。エジェレがレイス君に近づいて――
「なっ!?」
「あらあら、だいたーん」
私も、あの子があそこまでするとは思わなかった。
まだ幼いとはいえ、エジェレも一人の女なのだな……。
(う、うわああああ!?)
あ、レイス君が叫んだ。へたりこんだ。
ウブな反応は、隣にいるような変人でなくとも見ていて楽しいものだ。
「ふふ、これであの子も大人の階段を一段上がれるかしら?」
子供なんて、親が思うよりも遥かに早く大きくなっていく。
母として、それは嬉しいことであると同時に、どことなく寂し――
(これはてつけだ。かえったら……な?)
ピシイッ!
エジェレの言葉を聞いた瞬間、全身が固まるのがわかった。
マテ。大いにマテ。エジェレ、それは、その台詞は。
(あはは……また、おばさんのまね?)
(うむ。
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