太陽が頂点を過ぎた頃、とある公園にて。
幼い子供が二人、砂場で遊んでいた。
「どうだ?」
「んー……」
二人して砂地に寝そべり、砂でできた山に手を突っ込む。
彼らがやっているのは、砂遊びの定番、トンネル。
砂の山に水を含ませて固め、その両脇から手を入れて穴を繋げる。
うまく貫通すると向かいの相手と手がぶつかり、そのまま互いの手をいじりあって終いには山が崩落する、あのトンネルである。
嗚呼あの頃はそんな風に女の子と手を繋げたなあとか、あの頃は普通に女の子の友達がいたなあとか(ry
とにかく、そんなトンネルを作ろうとしている幼い男女。
男の子(娘ではない)は至って普通のショタ。名前はレイス。
短い茶髪に、鳶色の瞳。左右で目の色が違うなんてこともない。顔立ちも至って普通。
要するに、エ〇ゲの主人公としてのポテンシャルの持ち主である。
「ぜんぜんダメだあ」
乱暴に抜くと目の前の彼女に睨まれるので、慎重に腕を砂山から抜き出す。
「むう……なんでつながらないのだ?」
同じく山を崩さないように腕を抜き、頭の上についた犬耳をピコピコさせながら、向かいの彼女はつぶやいた。
手をぶらぶらさせれば、その手を覆う毛の間から大量の砂が落ちる。
彼女はエジェレ、アヌビスである。歳は5歳、つまりペド。
黒髪は風が吹けばサラサラとなびき、きめ細かな褐色肌の表面にはシミ一つない。
そのまだ幼い顔にはしかし、どこかクールビューティな雰囲気が漂っている。
二人は赤ん坊の頃から一緒に育った幼なじみであり、レイスの母曰く許婚である。
エジェレの母はそれを認めていないが、娘が望むのなら、いずれは……という姿勢をとっている。
爆発すればいいのに。
「やっぱり、やまがおっきすぎたんだよ」
「そんなことないもん」
頬を膨らませて言ってから、あ、とエジェレは口を押さえる。
「……そのようなことは、ない」
「あはは、おばさんのまね?」
その時、脇にある植え込みがガサガサと音をたてたが、二人ともそれには気付かなかった。
「で、どーするの?」
「……やる。かあさまがいつもいってる。『やることはしっかりこなさないと、ほかのものにしめしがつかにゃ』」
……。
……つかにゃ?
「だ、だいじょーぶ? ベロかんだの?」
「かんでにゃいっ!」
5歳児が一息で言うのは難しい言葉だろうし、しかたないのだろうが。
それでも彼女は頑として認めない。
「いいはら、レイスはさっさとトンニェルをつにゃげるのら!」
「いたいよ、なにするんだよぉ」
爪で引っ掻かれて、レイスは渋々トンネルの貫通作業に戻ったのだった。
「……あれ?」
「む」
それから数分後、砂山に手を突っ込んだまま、二人の動きが止まった。
「これ、エジェレのてだよね?」
「うむ。やっとつながった」
このトンネル、終わるのは本当に唐突である。
あまりにあっさり過ぎて達成感が微妙な程度には。
しかし、それでも完成すればそれなりに嬉しいわけで。
「やったあ!」
レイスは一気に腕を引き抜くのと、地面に寝そべった体を起こすのを同時にやろうとして――
「あ」
その腕が、トンネルの淵に激突した。
「……レイス」
「ごめんなさい」
砂上の楼閣ならぬ砂の山は、跡形もなく崩落した。
爪を剥き出しにして睨んでくるエジェレに対してレイスができることは、ひたすら平謝りすることだけ。
「はぁ……しかたない、とくべつにゆるしてあげよう」
「ほんと!?」
勢いよく顔を上げるレイス。
今の今まで地面にこすりつけられていたその額には、砂がついている。
「そのかわり」
「むぎゅっ」
そんなレイスの顔に、エジェレは手の平の肉球を押し付けた。
もう一方の手で、ズボンのポケットから何かを取り出す。
「ん……なに?」
肉球から解放されたレイスの目に映ったのは、エジェレの手に乗った二つの輪。
一つは直径2センチ程の小さな金属輪、つまりは指輪。
もう一つは直径10センチ程のチェーン状の輪、アンクレット。
「わたしと、けっこんして」
その瞬間、先程と同じ植え込みが再びガサガサと音を立てた。
しかし、二人にはそんなことに気付く余裕などない。
「……え、おままごと?」
キョトンとした顔でレイスは尋ねる。
しかし、エジェレは真っ赤な顔で首を横に振った。
しばしの間。
「うーん、じゃあね……おとなになったら!」
「おとな?」
「うん。けっこんはね、おとながするものだから」
「おとなになったら、けっこんしてくれるのか?」
「うん!」
その言葉に、エジェレは残念そうに俯きながら指輪とアンクレットをポケットに戻す。
しかし、再び何かを決意したような表情で顔を上げた。
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