焦げ茶色のマントを羽織った冒険者が小道を歩いている。
冒険者……ハールリア・クドゥンはカント・ルラーノ市を散策していた。
特に何をするでも無く、商店街から中央広場、民間の居住区まで。
当ても無くフラフラとしている姿は、正に散策だ。
そんな様子に、傍らで漂っていたフィーリが言う。
「ご主人、そろそろ宿でも探す?」
「………」
そのフィーリの提案に、ハールリアは渋面した。
不機嫌…というよりは、『バツの悪そうな』といった感じの表情だ。
歩みを止め、そんな顔を作った主人を見て、フィーリは心配そうな声を出す。
「…ご主人?」
「なぁ、フィーリ……覚えてるか?」
神妙な声音で彼は言う。
それは多くの苦悩と躊躇の思いを感じさせる重々しい声だった。
フィーリは少し気を引き締め、続く言葉を待った。
彼は一呼吸置いてから、ゆっくりと告げる。
「……僕達は、宿に止まれそうにない」
「え…?」
「ほら、フェムの馬車に乗る前。…覚えているかい?」
少しずつ、ゆっくりと。緊張感有る語り口。
まるで世界の終焉を告げる予言者のような声で、彼は言った。
「財布…無くしただろう」
すぅ…と、風が吹き抜ける。
冷たい風だ。秋の深さを感じさせる。
それが穏やかに、ハールリアの髪を揺らした。
風はフィーリをもユラリと揺らし……直後に、焔と変わって吹き上がった!
「こっの……バカご主人っ!!」
吹き上がったフィーリの炎は、思いっ切りハールリアへとぶつけられた。
一応、彼の羽織るマントは防火製だ。
しかしまあ……言った所で精々、衣服が燃えづらいというだけの事。
その暴力的な熱量がどうにかなる物では無い。
「うっぎゃぁあああ!!?」
「シリアスを返せ!前フリを返せ!
期待を返せ!心労を返せ!
私の戸惑いをトキメキを心配を!!
一瞬で破壊し尽くした全ての物を返せぇぇえええ!!!」
叫ぶハールリア。
彼女は追い撃ちをかけるようにして、その炎の体でハールリアを何度も殴る。
どこか聞き覚えの有る言葉回しと共に、燃え盛る拳が飛ぶわ飛ぶわ。
飛び散る火の粉が花火のようだ。見てる分では綺麗なものである。
「本当に勘弁してくれって、フィーリ!
ん?…心配してくれたん……っだぁああ!? ちょっとフィーリ!
熱い!本当にヤバイって!! 燃える!死ぬ!!勘弁!!!」
拳と共に飛んでいた言葉で、少し心穏やかになったハールリア。
まあ、そんな余裕もすぐに消えさったようで……
熱い熱いと叫びを上げながら、人通りの無い路地を駆け回る。
「う〜、うっさいバカ! このバカ! オオバカご主人!!」
ハールリアの言葉を聞いて、ちょっぴり言い吃るフィーリ。
心なしか顔も赤く、照れているように感じるが……
いつ着火してもおかしく無いような状況の彼に、それに気づく余裕が有るわけも無し。
ただヒイヒイと悲鳴を上げながら逃げ回りつづける。
……情けない。
XXX XXX XXX XXX XXX
「本日中に達成でき、かつ報酬の高いクエスト……ですか?」
「はい。丁度良い物は無いでしょうか?」
昼から夕に差し掛かる頃合い。
ハールリアは酒場へと来ていた。
彼の注文を聞いて、受付嬢は手元の書類をパラパラとめくる。
そして五秒と経たずに彼女は答えた。
「ありませんね」
「そ、そうですか…」
あまりに簡潔で、こざっぱりと……
いや、ざっくりと答えられ、ハールリアは少したじろんだ。
窘めるような口調で受付嬢が言葉を続ける。
「そもそも、もう数刻で日も落ちるような時間に言われても有る訳がありません」
「う゛……すみません」
にべも無し。
申し訳なさそうにハールリアは頭を下げた。
受付嬢の言葉はまだ続く。
「加えて、報酬の高い……欲張りすぎですわ」
「うぐっ……」
至極順当な意見なので言い返す訳にもいかない。
カウンターに肘を立て、ハールリアは項垂れる。
うんざりしたような声で彼女は続ける。
「そもそも、契約金はお持ちで?……討伐任務には必要不可欠でしょうに」
「い、いえ……銅貨一枚も」
「呆れた…一文無しで店に来たんですか?非常識ですねぇ……」
はぁ、と。大きく溜め息すら吐かれてしまった。
しかし彼女の言葉は、あくまで真っ当な意見だ。
なので、怒れば逆ギレだ。
何かと複雑な状態だ。
いよいよもってハールリアはカウンターに突っ伏す。
そんな彼の様子を見て、受付の女性は一言加えた。
「見たところ、かなりお疲れのご様子で……。
回復薬でもお飲みになって出直した方が宜しいのでは?
それと、後が突っかえておりますので早くどいて頂きたいのですが」
………今更だが、この娘相当の毒舌家である。
ハールリアは力無く立
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