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XXX 秋の二月目、新月の日 XXX
さて、今日は散々だった。
昼に戻ってきたあの傭兵の報告から、対マタンゴ用の作戦計画を突貫で完成させた。明日一日で第一フェイズを終了させる予定だ……奴等が相手ならば、完全にスピード勝負になる。放っておけば、この街がキノコの山に変わっちまうだろう。幸い、繁殖地はかなり森の内部側だったらしい。あんな所まで行く人間はそう居ないので、最悪の事態は避けられそうだ。
まあ、面倒には変わらない。やれやれだ……はぁ
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「コルナー、実働できる教会員は何人集まった?」
「はい、五百八十六人です。ニーザル隊長」
「五百八十……少なすぎないか!?」
「はい。ちなみに僕を含めて二人は森の方に探索に出るので、街内活動員は……」
「あ〜〜〜、言うな言うな!聞きたくない!
全く何だというのだ、この街は……」
「まぁ、信心浅いのは仕様ありませんよ。
この辺りの人間は、教会の言う『魔物像』が大嘘だって知ってますし……
五百人居れば多いんじないですか?」
「相変わらず減らず口を……貴様それでも騎士か!?」
「正論ですから仕方ありませんよ〜。それに、騎士は主と民を守ってこそです。
規律や格式を気にしすぎですよ、ニーザルさんは……」
「はぁ…また正論を……」
「あ、正論は認めるんですね?さっすが隊長。器量が大きい」
「うーるーさい。それで、この街の総人口は?」
「はいはい。届け出の上では五千三十六世帯の一万二百二十四人です」
「……なぜスラスラと暗唱できるんだ、お前は。 それに五千世帯に一万人?
夫婦一つに子は三人以上が普通だろうに……随分少な過ぎないか?」
「昔から暗記は得意なんです。
あ、今回は魔物娘をカウントしてませんから。
カウントするなら二万飛んで六千五十二です」
「………」
「まあまあ、それでもこの街は平和なんです。
住んでいる以上、魔物だって民草には違いありませんよ?
ね、騎士長殿♪」
「………はぁ」
XXX XXX XXX XXX XXX
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XXX 秋の二月目、月立ちの日 XXX
今日は疲れた。さすがに六百人足らずで『街』規模の人間全員をチェックして回るなんぞ……狂気の沙汰だな。しかし人間、やろうと思えば何とかなるものだ。どうにかこうにか、今日一日でチェック作業は終了。有り難いことに、被害者は数人。それも極僅かな被害で、浄化魔法一回で何となる程度だった。これは僥倖だろう。
しかしまぁ……どうやら私はトラブルの悪魔に取り憑かれたらしい。問題事は次から次へとやってくる。それも魔物関連ばかりだ。まったく嫌になる……。この街が魔物に対して友好的であることは知っているが……いや、そもそもそこからオカシイ。この国は魔物と戦争中の筈なのだ。いくら国の端とは言え、こうも呑気に魔物と人が一緒に居るような街が………おっと。話が逸れた。
そうそう、新たな厄介事の話だったな。街を探索中、どこから迷い込んだのかは知らないが、魔物の子供がいた。どうやら迷子か何かのようで、『騎士』として、私が保護する事になった。私は、教団の人間なのだがな………はぁ
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「こちらB班。第二十四区の調査、終了致しました!」
「こちらF班。第二十八区の調査、終了致しました!」
「ご苦労、ではB、F両班はD、E班に手伝いに行け。
あそこが一番混み合っている」
「「はっ!」」
「さて、我々A班がこの二十九区。東門近辺の調査を終了させれば、任務完了だ!
十六時間に及ぶ諸君等の重務も、残りは僅か。気を引き締めろ!!」
「「「 応! 」」」
「すみません、教会の者ですが」
「ほえ?何かご用ですか?」
「実は西の森でマタンゴが発生しまして、二次感染の恐れがあるので調査を……」
「あ、家は魔物娘しかいませんのでぇ問題ありません〜。お勤めご苦労様です♪」
「あ…はい、失礼しました」
「やれやれ、人の方が少ないとは……しかしまぁ、これで仕事は終わりだな。
さて、帰って湯浴みでも……ん?」
「うぅ……」
「子供? おい、一体どうした?」
「きゃっ!?」
「あ〜、驚かせて悪かった……私は見ての通り騎士さ。一体どうした?」
「騎士様…でしたか。いえ、その……」
「どうした?何をそんなにキョロキョロしている?」
「あの…騎士様。えっと…その、迷子に……なっちゃって」
「なるほど。それじゃあ、家まで送ろう。 家がどこか解るか?」
「……すみません」
「解らないのか?」
「いや…あの……はい。すみません……」
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