傭兵団「朱さす濡羽」
読み方は、シュサスヌレハ、である。
それとは別に、略称として「アケヌレハ」と呼ばれることも。
この名が示すのは、間違いなく団長であるハイメニーの事だろう。
特徴的な羽のパターン――夜を濡らした漆黒色と、先端に灯る夕暮れ色。
彼女が言うには、遺伝的な物であるらしい、この鮮やかな翼の色合い。
「朱さす濡羽」から示されるのは、ハイメニーという一人の美しきブラック・ハーピーだ。
聞けば、かの傭兵団に属するのは彼女を慕い来た者達ばかりなのだとか。
その為か「朱さす濡羽」には実に多種類の魔物が所属している。
ワーウルフ五名、オーク四名、ハーピー三名、ワーラビット三名、ホブ・ゴブリン一名にゴブリンが六名。
オーガ、コカトリス、ラミア、アラクネ、ゴーレム、マンティスにワーシープ、ワーバット、ユニコーンが各一名ずつ。
機動部隊長であるケンタウロス、ウノ・クィーネ。
歩兵部隊長であるミノタウロス、アイン・ティモシス。
さらに副団長であるサキュバス・エルフ、リープ・ナレット。
総勢三十四名。その多くが亜人種だ。
成り立ちや、傭兵という職業を鑑みれば妥当だろう。
サキュバスやスライムが同性を慕って戦場を渡り歩くとは考え難い。
また、朱さす濡羽の内部には二種の戦闘部隊がある。
それが歩兵部隊と機動部隊で、種族の違いで分類されているらしい。
例えば、ゴブリンやオーク、ウェアウルフなどは歩兵部隊。
ワーラビットやハーピー種など、移動能力の高い魔物は機動部隊に属する。
それとは別に、後方支援の部隊もある。
戦いの不得手な個体はここに属しているらしい。
こちらで、料理、治療、武具の応急的な修理などをするのだそうだ。
よく出来たシステムだろう。
各々が、それぞれの得意分野に力を出せる。
それに加え、魔物であるが故に個々の戦闘力も高い。
たった三十五名の戦闘集団。
しかし、その戦力は計り知れない。
「朱さす濡羽」
ただ一人を表す形容句であり、
一つの強大な戦闘集団の名称。
朱さす濡羽は、強力だ。
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フェムノスと、ハイメニー。
黒い傭兵二人は山道を下っていた。
目指すは先程見つけた、敵方の部隊だ。
「ん。もう少し行った所の泉が、丁度よく広々としてる。
向こうもここらで休憩だろうし、多分その辺りで鉢合わせる事になるだろうね」
「ご苦労。ハイメニー」
「どういたしまして」
高く飛んで様子を見ていたハイメニーが、フェムノスの横に降りてくる。
「見つかれ」と言われているからか、忍ぼうともせず、雑談までして歩く二人。
今の飛行とて、相手にもハーピー種がいるのだから、「見つけてください」とアピールしてきたようなものだ。
……まあ、どうやらそちらは不発に終わったようだが。
「やっこさん達、ずいぶん急いでるようだね。斥候すら飛ばさないで強行軍やってる。
これなら一発ガツンと奇襲してやれば、いー感じに混乱が起きるだろうさ」
「そうか」
「……やれやれ」
本当に無口な人間だ。
言葉には続けずに、代わりに大きく溜息を……
「一つ聞いても?」
吐こうとして、咳込んでしまった。
フェムノスから言葉を掛けられたのだ。
今まで相槌を打つ程度しかしていなかった彼から、である。
それだけだと言うのに、まるっきり想像だにしていなかった事態に、吸う息と吐く息が逆になった
なにか失礼な物言いの気がするが、事実である。
思えば、能動的に話し掛けられるのはこれが初めてではないだろうか?と、ハイメニーは記憶を辿りながら思うのだった。
「けほ、こほっ……あ、ああ。すまないね」
「…聞いても?」
咳込む彼女に、再びフェムノスが問いかける。
ハイメニーは何とか呼吸を整えて、取り繕ってみる。
カリスマが足りてない。
「あー……だったら、こっちも二、三聞いて良いかい?」
「多いな」
「良いじゃないか。で、どうだい?
受けないんなら、アンタの質問も受け付けない」
半ば強引に主導権を取り戻す。
口を突いたのは咄嗟の言葉だが、考え無しではない。
実際に気になっていた事が、二つ三つ確かにあった。
今この時までは、まるで聞こうとも思わなかった、些細な事なのだが………
「分かった。後で聞こう」
「物分かりが良くて助かるよ」
この言葉は本心から。
「それじゃあ、一つ目。
お前さん、一人で傭兵やってるんだろ?
傭兵ギルドの人間かい?」
一人で傭兵をやる者はすくない。
まず第一に、誰も雇わないからだ。
なにせ傭兵というのは金がかかる。
よっぽどの腕や才能――例えば対高域魔術が使えるとか――でも無い限り、雇い手
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