I Like Incest

『I Like Incest』


 中学時代、英語の時間。英語で簡単な自己PRをしてみなさい、と指示された。少し迷った後、いい年になっても相変わらずの虫好きから、このように書いた。

 副担任の艶っぽいガイジン先生さんに提出し、二日後。修正点や、向上余地などの数点のコメントと共に戻ってきた。他のクラスメイトの物にもあるそれ等に加え、名前欄のすぐ横に、他と同様の赤ボールペンで、けれど何時もの教師的な角張った字とは違う女性的な可愛らしい丸文字で、

『一緒に魔界に決ませんか?』

 と、身の危険をそこはかとなく感じる電波な提案が書かれていた。生憎と、そちら側に首を突っ込んだり、ましてや足を突っ込む気はさらさら無いので、後日にやんわりと断りを入れておいた。


 それでも、何故にこのような事態に陥ったのかまるで分からないので、この一文にどんな暗号が隠されてしまっているのか調べることにした。……具体的には、友人に聞いて。

 その友人。校内一とも言われる秀才者。しかもスポーツ万能にして、お茶の間のスクリーンの中に現れたって可笑しくない秀目麗美な顔立ちの――何故かいつもバンダナやフードで髪を隠す――彼女に、例のプリントとともに事の次第の解読を依頼した。ちなみに、駄賃は十円玉一枚(昭和六十四年産ギザ十。よく分からないが、熱心にゆずってくれと懇願していたのを覚えている。)二百円くらいは必要かとも思っていたが、ずいぶんと安くついたものだ。

「……。言いたい事は多いが、今この瞬間に君の立ち位置はシロアリと同じになった。知ってるかい?シロアリは蟻よりもゴキ○リに近いんだよ。……ああ、虫好きの君なら当然知っているか。
 まあ、兎も角。良い病院を紹介するよ。『元』友人のせめてもの情けだ」


 そんな彼女だが、返ってきた言葉は実に冷ややかだった。春によく沸く変質者を見る目つきだった。『ああ、アレももうすぐブタ箱に連れて行かれるのね』と、幻聴すら孕んだ視線であった。余りにも酷な扱いに、抗議の声を上げようとした所……

「ほら、さっさと出て行ってくれたまえよ変態嗜好者め。感染ったらどうしてくれるんだ」

 どうやら先程の物は幻聴ではなかったらしい。容赦も情けも遠慮も無い物言いを背中に受けていると、身には一つの覚えも無いというのに自分がそういった人間社会の底辺存在で有るかのように感じてくる。…視線が疼痛の様に身に染みる。ああ……もう、帰ろう。

「そうだ、妹君にもよろしく伝えてくれ……ボクの負けだ。
 ああ…この『予定』は、どうか狂って欲しかったなぁ………」

 嗚呼、背後から声が聞こえる。聖母マリアの如き慈愛に満ち溢れた……幻聴ですね、きっと。この人間のクズにそんな言葉をかける人間がいるものか。クズめ。ゴミめ。ゴミ虫め。ウジめ。貴様等など精々、一般的な食物連鎖図からチョット外れた所に書いてある『分解者』がお似合いだ。ムシケラに劣る粗大者め……


















 結局、友人はそれっきり何も教えてくれなかった(というよりは、あれ以来一言も口を利いて貰えなかった)ので、少し遅くに家に帰ってきた妹にも同様の頼みをしてみる事にした。二つ年下の、まだ中学にも上がっていない彼女だが、各種の英才教育とつい三年前までの海外生活というステータスを持っている。我が自慢の妹である。この兄とはエライ違いだ。兄よりすぐれた弟はいないと言うが、妹ならば幾らでもいそうな物である。

「んっん〜、そっかぁ♪ えへへ…」

 例の問題の一文を見せた後、ほんの少しの思案の後に、こんな反応が返ってきた。何やらマセた様な表情と、頷き。それから、頬を赤らめて嬉しそうにしながらの天使スマイルである。Oh…オレ、悩殺。我が妹ながら破壊力抜群である。シスコーンに目覚めてしまいそうだ(ちなみに、とあるシリアルの品名では無い。でも美味いよね、アレ。食いたいなぁ……)しかし何にせよ、相も変わらぬ当事者無視の自己完結な言葉であるので、出来の悪いオレの頭には『?』の一記号が浮かぶばかりである。いい加減そろそろ説明プリーズ。

「んふふ〜、兄ぃは何にも知らなくっていいんだよ〜〜」

 いえ、本当に気になって仕方ないんですって。

 思わず妹相手に敬語である。しかし、そんな必死な(?)懇願はまるで聞き入れてもらえず、我が妹様は天使スマイルを小悪魔スマイルにシフトさせて、にやにやとチェシャ猫の様に笑うばかりである。…いや、ホント助けて

「んと〜……あ、そうだ! 兄ぃも『マスター』さんと話しよ?
 ちょうど今日、『マスター』さんとそうい話をしてたトコなの。一石二鳥だよ♪」

 今、妹の話に上がった『マスター』さんとは、妹がネット内にて(若干十歳ながら、既に親から個人用PCを持つ事を許されている。
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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33