たたら工業
ちっちゃな町のちっちゃな町工場
従業員も社長を含めてたったの四人
誰かが抜けてしまうとお仕事ができなくなってしまいます
それでも仲良く元気にやってます
「社長」
せかせか、と作業をしている社長、多々良 彰(たたら しょう)の背後に人影が
「ふみ?」
がっしりした肉体に美しい顔
作業服の隙間から、モコモコの毛が見えている
アスリートのような体型の女性である
「オオハギ通運来ましたけど」
「はぁい、じゃあ行ってくるね」
作業を中断し、ぴょいん、と踏み台から降りた
「ルルさん、研磨の続きやっといてね」
「りょーかい、あっちもっスか」
ワーウルフのルルが指差した方には、山のように積まれたネジやら何やら
「うん、ヨミさんは成型やってるから、一人でね」
「うはぁ、牛鬼の腕がないとキツイっスって、アタシも鬼みたいなもんスけど」
ぶつくさ言いながら、ゴトリ、と人頭大の明らかに重そうな金属部品を持ち上げた
ルルに任せた後は、表に停めてあるトラックに近づく
この工場で作っている電車の部品を、電車を組み立てている大工場に運んでくれるのだ
「いつもお疲れ様でーす」
「はい、あの、今、デュラハンさんが積んでくれているので全部ですか」
トラックのお兄さんが荷台コンテナに視線を送るので、見てみると
首のない作業服がプラスチックの箱を積み込んでいた
「あ、クレアさん、首は?」
首がないのに、声のする方に振り返った
そして、ショウの背後を指差した
後ろの車のボンネットに、首用コルセットに乗った頭が無表情にあった
「いた、あといくつ?」
「…十個です」
「わかった、じゃあ運んじゃおうか」
クレアは首だけ頷き…首から下の方も連動して頷くモーションをした
ひょいひょい、とトラックに積んでいき、火急的速やかに運ばれていった
ふう、と息をつき、もう汗が染みきったタオルでかろうじて汗を拭く
「よし、…お昼ご飯にしようか」
クレアを振り返ると、作業服側がもう首を抱えていた
社長がお子ちゃまの工場では、12時になったらみんなお昼休みです
一階が作業場で、二階がレストルームの工場なので、外の階段を上って、サッシを開ける
十畳ほどの広さの部屋、中央に木製の大きなテーブル
奥にはコンロ、水回りなどの台所がある
扇風機のスイッチを押し、なんとか暑さをごまかす
正午の鐘が鳴ったので、他の従業員もお昼休みになったのはわかっているはずだが、まだショウとクレアだけだ
それぞれに割り当てられているロッカーを開け、お弁当を出す…
おや、クレアの弁当箱は二つである
そんなに食べる人だったか、と疑問に思うが、すぐに払拭された
「…社長…今日は社長の分も…お弁当を作った…」
なんと、大変だったろうに、作ってきてくれたのだ
「えっ、本当?」
わーい、と受け取ると、ピンクのハート柄の包みである
「あら、お熱いこと」
ぬぅ、とショウの肩口に、別の女性の顔が
黒い艶やかな髪が、汗で湿り、てらてらと光っている
「あ、ヨミさん」
従業員の一人で、牛鬼のヨミだ
「ん、お昼休みよね、勝手に中断しちゃったけどいいかしら」
「うん、いいよ」
引きで見ると、牛鬼の背の蜘蛛の足がわきわき動いている
尖っているその先端を器用に動かし、自分のロッカーを開け、弁当箱を取り出すに至る
ショウの隣にはクレアが座っているため、ヨミは向かいに座した
「ねえ、社長」
引っ掛かるような、蠱惑的な声で、呼ばれた
「なぁに?」
「生理が来ないのよ」
ガタッ
椅子を弾くようにして立ち上がったのはクレアである
「社長…私も…明後日からが排卵日だから…」
「何言ってるの?」
お子ちゃまのショウにはわかりません
「子供相手に言う冗談じゃないっスよ」
からり、とサッシを開け、ツッコミと共にルルが入ってきた
「あらバレた」
「…ウソ…か…」
ヨミは悪戯っぽく笑み、クレアは、ほっと一息ついた
「まったく…ヨミさんもクレアさんも社長と仲良しなのはいーんスけど、首ったけっつーのも考えもんっスよ」
頭をぼりぼり掻きながら、ロッカーからカップ麺を取り出した
「あ、ルルさん、またカップ麺」
既に見慣れたが、偏った食生活に苦言を呈した
「んー?いいじゃないっスか、食ってんだから、死ぬわけじゃあるまいし」
やかんに水を入れ、コンロに掛ける
口笛まで吹いて、どこ吹く風だ
「だから今朝、お弁当作ったげようか、って言ったのに」
「うーん…いくらなんでも、雇い主にってのも…、…あ」
何かに気づくと同時に、ルルの肩にクレアの顔が乗った
「…ルル…今朝…社長があなたの部屋に…いたの…?」
「…あ…いや…あ
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