2.1 塊

ギルドを出て、街の東口へと向かう。
この街の出入り口は四つあり、四方の方角に分かれて出入り口が作られている。 
東口は四つの門の中でも一番大きく、キャラバンの一行が通れるほどだ。
二人は並んで歩き、一歩の差のためかマリーは少し遅れると小走りで隣に着き、にこにこと笑顔でついて歩いている。

「のぅ、お前様。聞いても良いか?」

「ん?何かある?」

唐突にマリーが口を開くと、飛び出した内容は質問だった。

「何も説明せず連れまわしておるが何とも思わぬのか?」

質問の内容は、ギルドから今に至るまでの一件であった。
宿屋のエリから紹介状を渡され、ギルドに辿りつけば惑わされ、気が付いたら内容も知らない仕事を引き受けることとなった。
思い返してみれば断るタイミングなどいくらでもあり、途中で逃げ出すという選択肢もあった。
カインは旅人という立場を活かした言い訳もでき、逃げ出してしまえば行方をくらますこともできた。
なぜそうしなかったのだろうか。
理由は明白だ。

ただ、新しい世界を知りたかったから。

「まぁ、成り行き?面白そうなら手を出してみるのも一興さ」

あっけらかんに言うカイン。
そう言われたマリーは目を丸くしており、茫然としたまま歩いている。

「と、ところでお前様。お前様は戦えるのかの?」

ふわふわの手を素早く前後させ、パンチをするような動きをした。
背丈が小さいものだから一瞬何をしているか分からず、動きを頭の中で繰り返して思い出しながらやっと気づくことが出来た。
戦えるか、と投げかけられたカインは自分の両手を見て考えた。

「いや、素人に毛が生えたくらいだよ。君の手みたいにね」

くくっ、と笑いながらマリーの両手を見る。
マリーは自分の手を見てはっとし、頭にきたのか角をカインに押しつけている。
刺したいのだろうか角がカールしているため、うまく刺せずぐいぐいと押してしまっている。

「で、じゃ!こうなった理由を話しておくぞ?」

語気を強めながら喋る。
マリーが説明した内容をかいつまんでみるとこうだ。

珍しく独り身の旅人が来たから確保しておくと後々楽だ。
ギルドの仕事を頼めばしばらくは滞在してくれるだろうし。
あと、人が良さそうだから好きになさい。

三行でまとめることのできる内容をマリーは長く、サバトの事を交えながら話していた。
現状のサバトの財政難から脱出するためにも自ら依頼を受け、道中で拾い物があればプラスの収支になる、と。
半分以上がギルドと関係が無かったためカインは真面目に聞くことをやめ、空を眺めながら聞いたふりをしていた。
当のマリーは説明に夢中になっていたためか気づいていない。

「わかった。しばらくは宿に落ち着こうかな?」

「おぉ!それは助かる!サバト支部からも助力はするぞ?」

結構です、と冷たくあしらうカインに、マリーは小さな体で憤慨し、カインの背中に飛びついていた。

「お前様よ!人の好意は受ける物じゃぞ!」

「だってバフォメットだもん」

背中にマリーを乗せたまま、子供の様な言い訳をするカイン。
マリーは更に憤慨し、器用に背中に掴まったままばしばしと背中を叩く。
ふわふわとした手のせいかカインはマッサージのようにしか思えず、小さな声でもうちょっとした、と呟いている。

広い草原の一本道を黒い背中にバフォメットを乗せた、黒い男が歩いている。男の髪は黒檀のように黒く、青い海を押し込めたような瞳。
首筋には黒い模様が、外套は黒く、少女を背に乗せて歩いていた。

                   *
「そろそろ目的地じゃぞ、お前様」

背中に乗ったまま腕を出し、先にある森を指差す。
森は緑に茂り、かなりの深さがあるようだった。
マリーの話ではかなりの数の種族が住んでいるから用心せよ、とのことであった。
マリー曰く、「自分がついてくるからこそ襲われない」そうだ。
あまり街に出ない魔物娘ならばバフォメットを見ればたじろぎ、迂闊には手を出してこないそうだ。

「儂に感謝するんじゃぞ!」

日差しが強いためか帽子をかぶせられたマリーが偉そうに言う。
頭に被った、というよりも角に被っているが。

「それよりも内容は?教えてもらってないんだけど」

「ぬぬ、そうじゃったか」

背中に乗ったまま、マリーは腰のポーチから一枚の紙を取りだす。
取りだされた紙は依頼書であり、今回の目的が書かれた紙であった。
乱雑に扱われていたためか依頼書はぐしゃぐしゃにつぶれていて、所々穴があいている。
内容は至極簡潔に書かれており、『アルラウネの蜜を瓶3本分集めて』と書いてあった。
アルラウネの蜜は媚薬としての効果を持ち、親魔物領などではケーキなどにも混ぜられている蜜である。夫婦の間でも使われ、営みに色が増すという話をよく耳にする
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