カランカラン。
自分でも自信のある、綺麗な鐘の音が鳴った。
扉の方をちらりと見て見れば、蛇の様な女性が入ってきている。
スルスルと音も立てずに店内を移動しながら。
「やぁ、いらっしゃい」
「ここに来れば欲しいものが見つかるって聞いたんだけど?」
あぁ、いつもの客か。
それにしても無愛想だな、とカウンター上の書き物を横にずらす。
「で、見つかるのかしら?」
「何が欲しいので?」
尻尾の先で器用に金属のコップを回している。
壊したら倍の値段取るからな……
というか何が欲しいのだろう?
「えっと、虜の果実が欲しいんだけど」
あぁ、虜の果実か。
生憎、この間思いつきでほとんど使ったっけか。
「5つよ」
おぅ……。
在庫は2個。
何が万屋だ俺の馬鹿!
「えぇっと、在庫は2個かな?」
「たった2個なの?万屋なのに?」
「だってしょうがないじゃない……」
「何か言ったかしら?」
意外と耳の良いメドゥーサだな……。
虜の果実なんて売れなきゃ痛むんだからしょうがないじゃない……。
不良在庫を抱えたくないからしかたなくいじって……。
「あ」
ふと、考えが口に現れた。
正面のメドゥーサはびく、と驚いて頭の蛇達が威嚇している。
「な、なによっ?!」
「いやぁー。ちょうどいいものがありますぜ、お客さん」
我ながら天才だ。
三流っぽい台詞だけど。
「急に胡散臭くなったわね……」
うるさい。
「ちょっとまっててね」
そういって俺はカウンターを飛び越え、メドゥーサの脇をすり抜ける。
冷蔵庫はどこだったかな?
ここか?ここがええのか?
手当たり次第に山積みの荷物をかき分ける。
我ながらよくもここまで散らかしたものだ、と感心しながら冷蔵庫の扉を開ける。
あった。
これだ。
「じゃじゃーん!虜の果実エクスプロージョンでござい!」
「……爆発するの?」
芸術は爆発、じゃなくて
「……まぁ、名前なんて記号だよ」
ネーミングセンスがないのは元々だから恥ずかしくない。
それよりもこの瓶だ。
ふと、売れないから腐らせるともったいないと思い、鍋に入れてみた代物だ。
ただのジャムにしようと思ったけどそれだけじゃつまらないと思い、いろいろ入れて煮詰めたものだ。
正直、何を入れたか覚えてない。
でも、身体には悪くないはず。
「で、何かしら、これは?」
「虜の果実さ!ちょっと手を加えてパワーアップしてるけどね」
「私はジャムじゃなくて果実が欲しいのだけど?」
ぐぐ、なかなかしぶとい。
「ちょっと話を聞いてみないかな?」
「なんd……」
「これはね、虜の果実はもちろんのこと、陶酔の果実のエキス、ホルスタウロスの牛乳を入れてクリーミーに、アルラウネの蜜を入れてコクを深め、隠し味を少々!」
「これで夫婦仲は燃え上がること間違いなし!」
決まった。
隠し味は正直覚えてないけど、これは世紀の大発明じゃないかと思う。
明日からインタビューの準備でもするか。
「……虜の果実を2個、もらうわ」
「えっ」
ちょっと話が違うんじゃないかな。
あれだけベラベラ説明したのにスルーかよ!
「まぁまぁ、お嬢さん、お代はサービスしとくからこれも持って行きなよ」
世紀の大発明が水の泡になる。
なんとしても渡さないといけない。
赤字覚悟にはなるが、ここは仕方ない。
「ちょっと待ってね!」
カウンター下を急いであさる。
取りだしたのはハーブだ。
「ほら、これもサービスだ!やったね!」
虜の果実を2個、世紀の大発明1個、魔界のハーブを一袋。
紙袋に詰めてメドゥーサの前におく。
「お代は銀貨3枚」
「そこはしっかりしてるのね……」
なんせ商人だからな。
銀貨3枚を受け取るとメドゥーサは紙袋を小脇に抱えて扉の方へと向かっていく。
「まいどー」
「まぁ、意外と安かったから贔屓にしてあげるわ」
振り向かずにメドゥーサは言う。
頭の小さな蛇たちはこちらを向いて全部が頭を下げている。
「わかりやすっ」
〜今日の支出〜
虜の果実 2個
魔界ハーブ 一袋
世紀の大発明 一瓶
収入:銀貨3枚
総計:プライスレス
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