封されし王の宿敵

 パチリと目を開ける。暗闇でも見える自身の眼に映ったのは、砂色の石壁だ。

「なんで開いてないのよ・・・」

 寝転がっている自身の周りも石壁で囲まれている。此処は石棺の中だ。そして、眠りから覚めたわたくしは、目の前の石蓋を両手で押し退ける。

 ズシンと左隣りへ落ちた石蓋を気にせず、ゆっくりと上半身を起こした。

「んぅぅぅぅ・・・よく寝ましたわ」

 シャラランと鳴る腕輪やネックレスなどのアクセサリーだけでなく、下半身から生えている漆黒の鱗を纏った蛇の尾もシュルルと鳴り響かせる。

 そう・・・わたくしはアポピスであり、名はクルスラ。砂漠の王に敵対する邪悪な蛇の魔物である。黒い蛇の尻尾や紫染みた肌に長い黒髪と、まさに太陽を汚す暗黒そのもの。無論、生まれ持った魔力は並の魔物以上。口内の毒牙は人間や魔物など関係なく、強烈な淫欲を与え、その者を支配する。

「このクルスラに敵う王なぞ・・・王・・・・・・あっ・・・」

 長い眠りから覚めたわたくしは、物忘れ防止のためにする自己紹介をしながらあることを思い出した。

 長年、闘い続けてきた宿敵ファラオの存在である。

「ラ・・・ラナンサ・・・・・・ラナンサァァァ!!」

 宿敵の名を叫びながら周りを見渡す。そこは狭い個室のような空間。四方八方が丈夫な石壁で出来ている。恐らくピラミッドの何処かにある場所だろう。しかし、こんな場所は見たことがなかった。

「もしや・・・わたくしを閉じ込めたつもりですの?」

 そう予測するも確信はないため、近くの壁へズリズリと移動する。何処にも入口らしき造りが見当たらない。それなのに窒息しないぐらいの呼吸は出来る。魔物としての驚異的な身体力もあるので、さほど気にはしないが・・・。

「生き埋め・・・にしても変ですわね・・・」

 何もない空間に、わたくしの寝床である石棺だけ置かれていた。どうやら眠っている間に運び出されたらしい。しかし、何故此処に運び込まれたのか、何故密室に入れられたのか。

「まったくもって理解できませんわ・・・」

 試しに魔力の籠った拳で石壁を殴ってみた。

「はあっ!」

 ズンッという音が鳴り、そのすぐ後に天井がグラグラと揺れ出す。これは・・・非常にまずい。慌てて両手で頭を抱え防ぐ。

「・・・・・・・・・・・・?」

 揺れていた天井が徐々に治まった。再び静寂が訪れたことで安堵の息が漏れる。助かった。でもこれで分かったことは最悪なこと。衝撃を与えれば間違いなく天井が崩れ、生き埋めにされる。魔法での脱出も不可能だ。

「どうしたものかしら・・・」

 開きっぱなしの石棺の横へとぐろを巻くように座り込む。此処から出る方法を模索するために・・・。





「また妾(わらわ)の勝ちじゃな」
「くぅぅぅぅぅ! あそこで魔力が尽きなければ勝てましたのに!」

 地面へうつ伏せるように倒れ、右手をドンドンと打ちつける。目の前でわたくしを見下ろすように立っている褐色肌の相手。所々に金のアクセサリーと包帯があり、金と青の縞模様をした杖を携える黒い長髪の女性。

「これで・・・・・・これで?・・・何勝目じゃったっけ?」
「だから覚えておきなさいよ! 934勝よ! 934勝!!」
「おおっ、そうじゃった」
「もう!」

 彼女こそ、わたくしの宿敵であり、倒すべき相手。ある砂漠のピラミッドと付近の町を治めるファラオのラナンサ。彼女の魔力はわたくしの魔力と五分五分のはずなのに、何故か・・・・・・勝てない。

 ぐるりと身体を横に回転させて、仰向けの状態になる。青空を眺めるその視界の上から彼女の顔が現れた。何者に対して微笑む爽やかな笑顔。そんな彼女が憎い。そもそも何故勝てないのだろうか?

「炎天下の場所で寝ると干からびてしまうぞ」
「誰のせいよ」

 杖を持たない左手を差し出してきたが、わたくしはそれを手に取らず、ゆっくりと身体を反り返るように起こした。そんな高慢な態度をされたことも気にせず、彼女は手招きしてくる。

「ほれ、運動の後のお約束じゃ。飲み物を馳走しよう」
「・・・・・・いただくわ」





「・・・・・・・・・・・・はっ!?」

 まるでその場に居たかのような感じだった。どうやら考え込んでいる内に眠ってしまったらしい。

「・・・寝たりないのかしら?」

 それでも不十分な感じはしなかったので、睡眠不足という訳でもないだろう。しかし、なんで今頃になってあんな夢を見たのだろうか。毎回毎回同じことを繰り返したせいかもしれない。

「そういえば・・・・・・」





「むぅぅぅぅぅ・・・」
「ほれ、お主の番じゃよ」
「分かってますわよ・・・ちょっとお待ちなさい」
「そう言って、20分くらい考え込んどるぞ」

 そんな言葉で焦らしてくるフ
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