No.14 恋心

 日が落ち始め、シャインローズの町に夕闇が訪れる。

 屋敷内ではランプが灯されていき、メイド達は夜を迎える準備をしていた。



 屋敷のある一室。


 そこにある大きなベッドに一人の青年が仰向けで眠っている。

 衣類は下半身の濃い青色のトランクスのみ。それ以外は身体の至る所に包帯が巻かれていた。顔の左頬にも白い小さなガーゼが貼られている。

 ベッドの左横では、椅子に座りながらうつ伏せで寝るレンジェの姿があった。時節、腰の白い羽をピクピクと動かしている。

コンッ、コンッ
「失礼します」
「・・・・・・ん・・・」

 凛とした声に眠っていたレンジェが目を覚ます。彼女は目を擦り、ドアの方向へ目を向けた。

「領主様・・・」
「・・・ヴィーラ」

 部屋に入って来たのは秘書である吸血鬼。彼女は左手で伊達メガネを整え、レンジェの傍までやって来る。

「・・・まだ、お目覚めにならないのですか?」
「・・・ええ・・・あれから四日も経ちました・・・」

 “陰なる存在”によって、スリップス領は崩壊。町を含め、居城から半径数キロ先まで植物すら枯れ果ててしまい、誰も住めぬ土地へと変貌した。

 その町のほぼ全ての住人が操られ、その命を糧にされた者は衰弱し、非常に危険な状態だった。夢乃達が連れてきた援軍により、住人達はすぐにシャインローズへと運ばれた。

「教会の動きは?」
「沈黙したままです・・・というより、こちらと関わりたくない姿勢を見せています。恐らくレスカティエの件で警戒しているのではと・・・」
「そうですか・・・・・・」

 住人達が治療している間、ヴィーラはスリップス領から一番近い反魔物領にある教会へ連絡を取った。事態の報告と救助した住人の移送を要請したが、教会は被害にあった住人を受け入れないと拒否したのだ。

「こちらで受け入れるしか出来ないようです。現在、別の親魔物領の町や魔界と連絡を取り、移住する準備を進めておりますが・・・」
「・・・住人の意志は?」
「複雑な心境に立たされているため、少々時間が掛かります」

 被害を受けた住人のほとんどが、隣人や身内を襲い、魔に犯されたと衝撃を受けて、発狂寸前の者まで出てしまう。そんな中、深刻なものが二つほどあった。

「領主様、これが例のリストです」
「・・・こんなにも・・・・・・」
「我々の出来る範囲で最善を尽くしましたが・・・間に合いませんでした」
「埋葬は?」
「ほとんどが親族を持つ者だったので、ある程度は兵士達に手伝わせました」

 生命を吸収された者の中には、根こそぎ奪われ、衰弱死した者もいたのだ。薬や魔法による治療を行ったが、それでも救えなかった者たちがいた。

 レンジェは手渡された洋紙に目を向ける。そこには救助した住人の内、死亡してしまった十数人の名前が書かれていた。ほとんどが60歳以上の高齢の者ばかりである。

「あと・・・魔物化した者ですが・・・」
「どれくらい居ますか?」
「こちらになります」

 ヴィーラはさらにもう一枚の洋紙を手渡した。それは衰弱死させないために魔力を与えた者たちのリストである。ほとんどが、若い年齢の者ばかりで、こちらは先程のリストよりさらに数が多かった。

「インキュバス化と種類は様々ですが、魔物化も多数・・・」
「それでも救えたのですね」
「ええ・・・何名かは伴侶になると申し出ました。また、魔界や親魔物領へ行く意志も強いです」
「彼らの望み通りにしてあげてください」
「御意」

 秘書は一礼して部屋から立ち去った。残されたレンジェはベッドで眠るシンヤを見つめる。未だ意識のない彼に悲しげな表情を浮かべてしまう。

(息はしている・・・でも・・・あれから目覚める様子が無い・・・)

 魔女による診断の結果、傷以外に身体の支障は無いと言われた。あらゆる治癒魔法も試みたが、どれもいい効果が得られず、青年が目を覚ます兆候は見られなかった。

(・・・・・・)

 途方に暮れるレンジェ。彼女は右手で彼の額を軽く撫でる。

(・・・精神が回復しきれていないのでしょうか?)

 彼女はそこであることを思い出した。

(・・・・・・魂は戻せた?・・・・・・なら・・・呼び覚ますことは?)

 そう思った彼女は触れている右手を青年の胸に当てた。

「・・・」

 彼の魂は肉体の中に入ったままである。触っても感じられるそれに、レンジェは右手で狙いを定めた。

「すぅぅぅぅ・・・ふぅぅ・・・」

 一呼吸して自身の右腕に魔力を籠める。腕が桃色に輝き、彼女は目を瞑って集中し始める。

「・・・」
キィィィィィィィィ・・・

 瞑ったはずの目に真っ白な視界が広がった。次の瞬間、彼女は信じがたいものを目にする。

「これは・・・」

 真っ白な世界から鮮明な視界が見
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