No.12 巨悪

 肉塊の卵から現れた異形の女。

 赤黒い手足、先端の刃物で束ねられた三つの赤い髪、露出した身体に刻まれた紋章に、紅い瞳。

 肉の床から数センチ離れて浮かぶその姿は、禍々しい紅のオーラを漂わせている。

「きっさまぁぁ・・・初めからこうなるように・・・」
「ふふふふ・・・」
「あなた、なんてことを・・・」
「どういうことだ? 貴様何をしたぁぁぁ!?」

 未だに事態の把握ができないレグアは、天使の少女を抱えながら問い叫んだ。何も言わず笑う女に代わり、シンヤがその問いに答える。

「町中の生命力をあの球に集めて・・・それを俺らに破壊させた」
「なっ!?」
「集めた力をリリエルさんに管理させ、割れると同時に彼女が吸収したのでしょう。私達を利用して・・・」
「お、おのれえええええ!!」

 不敵に笑う女が3人へ話し掛ける。

「以前はあと少しというところで邪魔されたのでな・・・」
「あの時は妖狐に残っていた意識のおかげで阻止できた・・・妖狐と1人の人間の犠牲によってな!」
「あの妖狐と小僧にはしてやられたよ。ちっぽけな存在と侮った我の失態だった」
「今回はそれを防ぐための罠か!」
「そうよ。我ではなく、神の使いに力を寄せ集め、溜まりきったところで我が頂く。おかげで我の悲願が間もなく成就する」
「悲願だと?」

 女は間を置いて答える。

「・・・我の存在理由・・・それは・・・あらゆる者を貪り、支配することよ」
「「「!?」」」
「魂が擦り切れるように疼く欲望・・・それを満たす方法は、人などの感情を持つ輩の欲望や負の感情を味わったときに得られる。それこそ我の存在する証よ」
「ならば、何故同じ物の怪すら喰らう?」
「あやつらも人間と変わらぬことをする・・・共生なぞ意味もないことを・・・」
「意味はあります!」

 突然、レンジェが声を上げた。彼女にとってそれは魔物娘を否定する発言だったからだ。

「私達魔物は人無しでは生きていけぬ存在。だからこそ、彼らに寄り添う道を選んだのです!」
「喰らう存在でありながらか?」
「私の母“魔王”がそれを変えました。共に生きる事こそ未来であると!」
「未だ叶えられていないそれを未来だというのか?」
「あなたのような、ただ支配する野望より望まれていることです」

 彼女の言葉に反応せず、睨みつける女は左手を顎の手前に持ってくる。

「やはり、相容れぬ存在か、ここの人外どもも・・・」
「無理やり穢し、操ったあなたに手を貸す人は誰もいません」
「もう貴様の狂言は聞き飽きた。この場で滅ぼす」
「我を?・・・できるのか?」

 女のその言葉で、レンジェは魔刀を構え、シンヤも戦闘態勢に入った。

「ふっ・・・もとより、この身体に変化させたのも・・・障害となる輩を滅ぼすためよ・・・」
「「・・・」」
「古から我を追い続けた陽なる存在・・・そして・・・」

 女は顎の手前に持ってきていた左手で顔の左側を擦る。以前、レンジェによって傷付けられた顔は跡形もなく治癒されていたが、まるで傷が疼いているかのように擦り続けていた。

「我の顔、いや・・・我の魂すら傷付けた“魔王の娘”たる存在・・・」
「・・・」
「そなたら2つの存在は我にとって障害となろう・・・今ここで・・・滅ぼしてくれようぞ!!」

 女が両手を拡げると、強風のような紅いオーラの威圧が彼女達に浴びせられる。レンジェとシンヤは耐えるが、レグアは硬直するほど怖気づいた。

「小僧」
「はっ!? な、なんだ!?」
「その娘を連れて下がってろ・・・巻き添えの無い場所でな」
「わ、分かった・・・」

 レグアはリリエルを抱えて、扉のあった場所まで走っていく。少年が天使をそこへ下ろした途端、先に動いたのはシンヤだった。彼は交差した両手にノコギリ状の回転刃を三枚ずつ手に取る。

「ふっ!」

 両腕を拡げるように回転刃を投げ飛ばし、それらは全て女に向かって回転しながら飛んでいった。

「ふん・・・」

 女が鼻で笑うと、彼女の背後から赤い触手が6本現れ、それらから赤い光線が放たれる。それはシンヤの投げた回転刃を消し飛ばした。

「焔の矢よ!」

 レンジェがそう叫び、自身の周りに炎で出来た矢が6本出現する。それらは弧を描いて、女の触手に向かった。

「ふふふ、可愛らしい力よ・・・」
「!?」

 そう微笑んだ女の触手が引っ込み、赤い長髪の左右の束が蠢き出す。それらが斬り付けるような素振りをし、その際に生じた赤い光刃を数枚飛ばした。その光刃はレンジェの飛ばした炎の矢を細切れにしていく。

「その程度の戯れで何ができる?」

 そう呟く女は再度髪を動かして光刃を飛ばしてきた。

「散れ!」
「はい!」

 左へ走り出したシンヤの指示で、レンジェも右側の上空へと飛び立つ。二人は左
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