No.09 侵食

 シンヤが自身の過去を打ち明けてから次の日。


 シャインローズから少し離れた森林地帯。



バキバキバキ・・・ズゥゥゥゥゥゥゥン・・・

 大木が薙ぎ倒され、静かだった森に不穏な震動音が響いてくる。その音に驚いた小鳥達が一斉に木々より高く飛び上がった。

「オオオオオオオオオオ!!」

 野生の動物とは言い難い雄叫びが響く。それは大木にも匹敵するほどの大きさを持つ巨大な影。遠くから見れば人の形に見える。だが、その身体は無数の紫色の触手が束になって蠢いている。5mを超えるほどの巨体だ。触手巨人は正面の方向へゆっくりと歩を進めていく。

 侵攻するその巨体の行く先に、2つの影が待ち構えていた。漆黒の鎧を着た薄緑の長髪の女性と、下半身が黒毛の蜘蛛足を持つ青緑肌の女性。デュラハンのセシウと、ウシオニの松である。

「デカい・・・」
「あんな化け物初めて見るねぇ・・・“ダイダラボッチ”かい?」
「いや、あれも“妖”が創り上げた触手玉だ」

 彼女たちの後ろからシンヤが説明しながら歩いて来た。

「触手玉ねぇ・・・」
「でたらめな触手だな」
「足止めは頼む。あれほどの大きさだ。それなりの力で生み出されたはず、油断はするな」
「了解!」
「任せな!」

 2人はそう言って、目の前の触手巨人へ走り向かう。

「オオオオオオオオオ!」

 巨人は相手に気付いたらしく、身体中から無数の触手を伸ばしてきた。それらは走り向かって来る彼女たちへと伸ばされていく。

「「はああああああああ!!」」

 セシウは自慢の両刃剣で向かって来る触手を切り落としていった。松の方は纏わりついてくる触手を怪力で引き千切っていく。それぞれ細切れにされていく触手に巨人はだじろいでしまう。

「松! 今だ!」
「あいよ!」

 松は下半身にある蜘蛛の腹の先端から糸を出し、それを怯む巨人に絡めていく。次第に身動きが取れなくなる巨人。それを見ていたシンヤが右手を青く光らせて、魔法陣を自身の足元に創り上げる。

「これで整った。後はあちらだ」



 一方、シンヤ達の居る場所から少しだけ離れた場所の上空。

「せいっ! せやっ!」
「ふっ! はっ!」

 空中を飛行するレンジェと夢乃は、襲い掛かってくる多数の触手を刀剣で切り裂いていく。

「きおおおおおおおおおお!!」

 彼女たちの後方から追いかけてくる物体。それは先程の巨人に匹敵する大きさを持つ巨体。腕の部分が翼のように形作り、足がない代わりに長い尾がある。長い鎌首を持つそれは、まるで“竜”のような存在に見えた。

 この怪物も触手で形成された身体となり、レンジェ達を触手で捕らえようとしている。

「もう少しで到着するわ! 夢乃!」
「しょ、承知!」

 レンジェ達はこの怪物をある場所へ誘導していた。触手に捕まれないよう剣で薙ぎ払いながら飛ぶ彼女達。その時、束になった触手が彼女達目掛けて襲い掛かる。

「ひっ!」
「氷結の霧よ!」

 レンジェは右手から雪の結晶が舞う霧を発生させ、太い触手を一瞬で凍結させた。彼女が右手をぎゅっと握ると、それに呼応して凍らされた触手が粉々に砕け散る。

ガシャアアアアアアアン!!
「あ、危なかった・・・」
「夢乃、もうすぐよ! お願いね!」
「囮ならお任せを!」

 サキュバス侍はそう言って、さらに上空へと飛び上がった。触手竜はレンジェを無視して、飛び上がる少女を追いかける。残されたレンジェは詠唱を唱えながら、下方向のある場所に目を向けた。

(いける!)

 桃色に輝かせる光を纏い、レンジェは触手竜に向かって叫んだ。

「金剛なる氷塊よ! 数多に集い、その身を堕とせ!」

 彼女がそう叫ぶと、遥か上空から凄い速さで巨大な氷塊が落ちてくる。それは真っ直ぐ触手竜へ向かって落下した。

「ぎおおおおおおおおおお!!」

 氷塊に激突された怪物はそのまま、木々のある地面へと叩き落された。

ズドオオオオオオオオオン・・・
「姫様!」
「狙い通りに落とせました」



「けほっ、けほっ・・・」
「ふぃ〜嬢ちゃんの魔法は過激だねぇ」
「過激な割には、狙いが正確だな」

 シンヤがそう呟き眺める先には、先程の触手巨人が落ちてきた触手竜の下敷きになっている。2体ともあまりの衝撃に耐えきれず、痙攣するぐらいしか動けなかった。彼の元にレンジェと夢乃が舞い降りる。

「シンヤさん」
「よくやってくれた。後は俺が引き受けよう・・・皆、下がっていてくれ」

 青年の指示でその場に居た4人が彼から離れた。彼は十分な位置に退避した彼女たちを確認し、手元の青い光を足元の地面に押し付ける。次第にその光は風船が膨らむかのように大きくなり、それは彼自身を乗せた何かを形作った。

キィィィィィィ・・・
「「「・・・」」」

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