シャインローズ襲撃から翌日の朝。
自然に囲まれた大きな町。その町を見下ろすかのように、巨大な城が丘の上に建っていた。
ここは教会勢力が治める“スリップス領”と言われる反魔物領の町である。
「くそっ!」
城内にある個室で一人の少年が壁に拳を打ち付けていた。彼の名はレグア・ランバート。このスリップス領で“勇者”の称号を持つ若年剣士である。まだ幼く見える顔とショートカットの金髪だが、身体は白い鎧で少し覆われていた。
(あの“タマガワシンヤ”・・・人でも魔物でもない・・・・・・なんなのだ?)
「失礼します、レグア・ランバート殿」
突然、個室の扉から男の声が響いてくる。それは城を警備する兵士の声であり、少年は彼が来た理由を先に予測した。
「ご用件は?」
「枢機卿があなた様をお呼びです。すぐにこちらの元へ来るようにと・・・」
「すぐに参りますと伝えてください」
「はっ」
少年は兵士が去っていくのを確認し、落ち込むような仕草でため息を吐く。それは今から会いに行く人物が苦手だからだ。それでも上からの命令である以上、会いに行かなければならない。彼は身なりを整えてから部屋を出る。
執務室にやって来た少年は、そこで待っていた黒い聖職者の服を着る男性の目の前に跪いた。その男性は40代前後らしく、少し老けて見えるような厳つい顔をしている。彼は怒ったような表情で少年を見つめた。
「レグア・・・色々聞きたいことがあるが・・・・・・まずは、無事に帰還できてよかった・・・」
「アザミュウマ卿・・・申し訳ありません」
この男性の名は“アザミュウマ”このスリップス領とそこに属する教団を統治する枢機卿。現在、この町の最高責任者は例外を除いて彼一人である。
「他の騎士たちから事情は聴いているが、お前からも報告を聞いておこう・・・」
「申し訳ありません・・・シャインローズに居る魔王の娘リリムの連行に失敗しました」
「またか・・・・・・今回は御使い様から光剣を授けられたはず・・・それでもあのリリムに勝てないのか?」
「あのリリムと一対一で交戦し、勝機が見えたところで乱入者が現れました」
「乱入者だと?」
その言葉に枢機卿が反応し、少年はしゃべり続けた。
「妙な黒服を着たジパングの男です。そいつは見たこともない魔法を使い、仲間の4人を触れずに倒しました」
「なんだと・・・」
「最初は異教徒(インキュバス)かと思いました。ですが、それとは違う何か別の・・・自分の力や光剣でも歯が立たない相手でした」
「・・・・・・」
少年の報告に枢機卿は右横にある窓へ向かい、何かを考えながら黙り込んでしまう。
(・・・勇者の力を持つレグアと光剣が効かなかった!?・・・もしや、相手は元勇者なのか?・・・だとしたら、厄介な・・・)
「アザミュウマ卿! もう一度、そいつとリリムを・・・」
「待て! いくら加護を受けているとはいえ、続けて奴らと接触すれば、魔物に穢されやすくなる。洗礼し終わってからにしろ」
「・・・っ!」
「それに、此度の件について・・・不甲斐なかったお前に対する処罰も決めなければならない。その決定が下されるまで・・・」
「失礼します!」
「「!」」
枢機卿の厳しい命令が言い終わる途中で、扉の方から可愛らしい少女の声が響いてきた。彼はため息を吐いて入室の許可を出す。
「入れ」
扉から入って来たのは、修道服を着た少女。彼女は一礼してから少年にあること告げた。
「勇者様、お迎えに上がりました」
「何用だ? 今は大事な話をしている最中だぞ。シスターメイヤ」
「御使い様からのご指示です。勇者様を祈りの間へお連れするようにと」
「!?」
少女の発言に枢機卿が言葉を失う。
「それでは、お呼びされましたので・・・これにて失礼します」
「・・・くっ、もうよい」
少年は少女の元へ行き、彼女とともに部屋から退出した。
廊下を歩く少年と少女。少女の名はメイヤ・リヤーズ。教会の修道女で、その中でも戦闘の補助が出来る術者として、優秀な存在である。また、数少ない御使い様の従者でもあり、御使い様の伝言役などをしている。
「勇者様・・・大丈夫ですか?」
「身体は問題ない」
「いえ・・・あの・・・枢機卿に何か言われましたか?」
「・・・・・・そんなに小言は言われてない」
心配する少女を余所に、少年は当たり前のように答えた。素っ気ない態度に少し俯く少女。それでも少年はまるで気付いていない様子で歩き続ける。
そこは限られた者しか立ち入ることのできない城の最奥に位置する神聖な場所。真っ白で3mぐらいある巨大な両開きの扉。その左右の脇には門番として、二人の白い女騎士が立っていた。修道服の少女が彼女たちに声を掛ける。
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