パチッ
「・・・・・・」
まもなく朝日が昇る時刻。
屋敷の客室にて、一晩眠りについていたシンヤが目を覚ます。彼は目の前に映る天井を見て、安心した表情になる。
「・・・そうだったな・・・今は別世界だったな・・・」
彼はそう呟いた後、ベットから立ち上がり、屋敷の外が眺める窓に向かった。そこからは屋敷の中庭があり、庭の右端には竹に囲まれた茶室が見える。彼は椅子の背もたれに掛けてあった学生服の上着を手に取り、羽織って部屋から出て行った。
「・・・・・・ん・・・朝ですね・・・」
ベッドで寝ていたレンジェが上半身だけ起こし、羽をぶるぶるさせるほど背伸びをする。ベットから立ち上がった彼女は、洋服ダンスの前へ行き、ピンクのネグリジェから普段着の黒服へと着替えた。その次に化粧台の方へ行き、鏡を見ながら黒い髪飾りで耳近くの髪を左右対称に束ねる。
「ちょっと早いですね。散歩でもしましょうか・・・」
彼女はバルコニーのある窓へ行き、そこから屋敷の正門がある庭を眺めた。
「・・・・・・?」
ふとここで、レンジェはある何かの気配を察知する。それは中庭から漂うかのように感じ取れた。しかもそれは最近感じ取ったばかりの力の気配である。
「もしや・・・」
彼女は目の前から日の光が差し込んでくるのを気にせず、ふわりと浮かび上がった。出来る限り音を立てず、屋敷の屋根を飛び越える。中庭が見える位置までやって来ると、そこには見知った顔の人物が佇んでいた。
(シンヤさん・・・・・・何をしているのでしょうか?)
青年の様子をもっとよく見るため、彼女は上空の手頃な位置で魔力によって創り上げた黒い座布団に正座する。
(あれは・・・魔法陣?)
直立で目を瞑っているシンヤの足元には、青く光る五芒星の魔法陣が出来上がっていた。それはいつも以上に大き目の円陣となり、五芒星のそれぞれ五つの端に何かが出来上がっている。
1つ目は、地面から蔓のように生える小さな樹木
2つ目は、赤く燃え上がる激しい炎
3つ目は、五角形の長い柱を形作る茶色の土
4つ目は、煌めき輝く光球の黄金
5つ目は、小柄なつむじ風の形になる水流
それらの中心に居る青年は、まるでそれぞれの力を順番通りに送るかのように見える。レンジェはその不思議な光景に見とれてしまう。しばらく続いた力の循環のような儀式は、朝日が照らされると同時に消失した。
「・・・・・・ふぅぅ・・・」
「・・・」
「・・・もう近付いても構わんぞ」
「!」
どうやら彼はいつの間にかレンジェの存在に気付いていたようだ。彼女は浮遊する座布団から飛び降りるように地面へ着地する。そして、青年の元へ近付き、先程の儀式に付いて尋ねた。
「先程のは、何なのでしょうか?」
「陰陽道による五行思想だ。ぃ・・・いや、書物に精神統一するための術があったからな。瞑想するときによく使う」
「五行思想・・・」
レンジェは術に興味を示すが、それ以上に気になることがあった。
(何かを言い掛けた・・・)
「どうした?」
「いえ、何も・・・」
昨日もそうだった。彼の言うことの一部に不自然なところが見られる。それはまるで何かを隠しているような感じだ。しかし、その理由は全く分からない。彼は一体何を隠しているのだろうか。レンジェの頭の中は疑問だらけになってしまう。
「・・・」
「おい」
「・・・はっ!・・・すみません。ちょっと、ぼ―っとしていました・・・」
「なら、いいが・・・」
「じゃあ、そろそろ朝食を食べに行きましょう」
「そうしよう・・・」
屋敷内にある広いダイニングルームで、レンジェはシンヤ、夢乃とともに大きなテーブルの椅子に座っていた。そこへメイドと一緒に紺が朝食の乗ったトレーを持ってくる。
「お待たせしました。今日は、白飯・焼き魚・味噌汁・おひたしの朝御飯です」
「美味しそう♪」
「おお、紺殿。これは鰆(さわら)ですな?」
「ご名答です」
喜ぶ二人に対し、シンヤは表情を変えず、朝食を眺めていた。
「いい出来の料理だ」
「お褒めに預かり光栄です♪」
「では、早速いただこう・・・」
「いただきます♪」
「いただきます!」
3人は手を合わせて箸を手にして食べ始める。
「ずずぅぅぅ・・・ぷはぁ、いいお味噌汁です♪」
「がつがつがつ・・・んぅ! おかわり!」
「夢乃殿は、相変わらず白飯の消費が激しいですね」
「白米は某にとって不可欠な存在! これがないと生きていけません!」
「夢乃・・・あなた、サキュバスでしょ?」
「・・・もぐもぐ・・・いい味をした焼き魚だ」
「あら、シンヤ殿。お気に召しましたか?」
「うん・・・料理人として、なかなかの腕前だな」
「そう言われると照れますね
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