「ごちそうさまでした♪」
「美味だった・・・」
ざるそばを食べ終えた二人は手を合わせる。お勘定はレンジェが何処からかガマ口の財布を取り出し、雪女の店員へ硬貨を数枚手渡した。
「毎度ありがとうございます♪」
「悪いな。飯代をまとめて君に奢ってもらって・・・」
「いえいえ・・・私としては、まだあなたには返したりないぐらいです」
「・・・・・・ん? 何を返したりないのだ?」
「秘密です♪」
(言えないようなことを俺はしたのか?・・・)
頭を抱えるようなことを言われて悩む青年。レンジェの方はというと、上機嫌に歩いている。
「じゃあ、そろそろ孔雀さんの落語でも見に行きま・・・」
カンッカンッカンッカンッ、カンッカンッカンッカンッ・・・
「半鐘? 火事か?」
「いえ、違います・・・これは・・・」
突如、鳴り響いてきた鐘の音に、レンジェは鋭い表情をする。彼女はこの鐘の鳴り方に覚えがあった。
(四回・・・彼らがまた来た!?)
「只事では、なさそうだな?」
「ええ・・・“教会”の襲撃です」
町の外周近くの街道で、多数の人が集まっていた。町の内側には、複数の軽装の剣士や武士が剣を構えている。対して、町の外側に居る者はたったの6名。しかし、内4人が厳つい鎧を持つ銀色の騎士。兜のない丸見えの顔付きからしても、相当な猛者に見える。
4人の銀騎士たちは、向かって来る剣士や武士たちを見事な剣裁きで押し退けていく。町を防衛する戦士たちが劣勢になりかけていると、彼らの後ろから少し大き目の体格を持つ魔物が現れた。
それは上半身が長髪の女性の姿をし、下半身は黒い毛むくじゃらの蜘蛛の身体。青緑の肌には赤い半被を羽織っており、額に赤い鉢巻が巻かれている。彼女は騎士たちの前に跳躍して立ち塞がった。
「随分と仲間を可愛がってくれたじゃないか?」
「姐さん!」
「姉御!」
押され気味だった町の戦士たちが声を上げる。騎士たちは彼女の姿を見て一瞬怖気づくが、すぐに剣を構えて襲い掛かった。
「へえ、勇ましいねぇ・・・」
彼女は腕を組んで、何もせず待ち構える。彼女の蜘蛛足に騎士の剣が突き刺さった。
「「「「!?」」」」
「・・・それだけかい?」
蜘蛛の女性は足に剣を突き刺されても痛みを感じていないのか、その足で騎士たちを振り払う。突き刺された足は傷一つ無く、地面を力強く踏み入れた。
「そんなものじゃあ、ウシオニであるアタシには効かないよ」
「ウシオニだと?」
「くっ! ジパングの魔物か!?」
たじろぐ4人の騎士。そんな彼らの居る後方から、1人の白い剣士が歩いてくる。まだ、若々しい彼は腰に付けた両刃剣を鞘から抜き、刃を蜘蛛の女性に向けて構えた。もう1人残された修道服の少女は少年を見守っている。
「此処は僕に任せてください」
「ああ、すまねぇ!」
「頼むぞ!」
「へぇ、今度は坊やが相手かい?」
余裕の表情で身構える蜘蛛の女性。少年剣士は踏み込んで相手に突撃した。軽くあしらうつもりで爪のある右手を振り下ろす。しかし、彼はそれを右に避けて、剣でその腕を切り落とした。
「っ!?」
慌てた彼女は残る左腕で横薙ぎをするが、少年は後方へ飛び下がって回避する。彼女は切り落とされた右腕の傷を左手で押さえた。
「くっ・・・再生しない!?」
「僕の剣はただの剣じゃないですよ。魔を切り払うための剣です」
「!?」
「こんな風に!」
少年剣士は素早く相手に接近し、彼女の前面にある2本の蜘蛛足切り落とす。そして、彼女の左横の腹も斬り付けて、相手に深い傷を負わせた。思わぬ攻撃で動きづらくなった彼女は、出血する腹を左手で抑える。
「ぐぅぅぅ!」
「これであなたは満足に動けないはずです」
「これくらい・・・ぐうっ!?」
「無理に動かないでください。僕の目的はあくまでも一人だけです」
「・・・嬢ちゃんには・・・触れさせやしないよ!」
「そうですか・・・なら!」
「姉御!」
「姐さん!」
少年が剣を振り上げて彼女に斬り掛かろうとし、周りにいた町の戦士たちが声を上げた。その時、少年と蜘蛛の女性の間に大きな氷の棘が突き刺さる。上からの不意打ちにすぐさま反応した少年は、その場から飛び下がった。
「っ!?」
「!」
「お止めなさい、若き勇者よ」
空から飛び降りて来たレンジェは、傷で倒れかけているウシオニを庇うように立ちはだかる。彼女は首だけ動かして、後方にいる蜘蛛の女性へ声を掛けた。
「松さん・・・お怪我は?」
「嬢ちゃん、すまねえな・・・」
「皆さん、松さんをお願いします」
レンジェの言葉に反応して、周りに居た町の戦士が数人がかりで蜘蛛の女性を運び出す。そんな中、レンジェと少年は互いに睨み合っていた。
「また、来たのですね?」
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