「「はああああああああ!!」」
レンジェと夢乃は襲い掛かってくる触手を刀剣で切り刻んでいく。その二人に守られながらシンヤは右手に数枚の青く光る札を作り上げた。
「いけっ!」
投げつけた札は触手の女性に向かうが、その途中で他の触手の犠牲によって防がれてしまう。
「ちぃ!」
「どうした? 先刻までは勢いがあったというのに」
(くっ!・・・動くための術が枷に・・・)
シンヤの骨折は薬によって痛みは治まっていた。だが、完治はしていないので、術を使って折れた骨を固定していた。それにより、彼は通常時の力を出せない状態になっている。
「はっ! せいっ!」
「ふっ! せやっ!」
刀剣を振り続けるレンジェと夢乃。それでも女から飛び出してくる触手は途切れる様子が無く、次々と新たな触手が襲い掛かってくる。
(これじゃ、きりがない・・・)
(ええい! 汚らわしいものをいくつも出しおって・・・それも姫様の御前で!)
「なかなかの剣筋を持っているようだな・・・戦国の世を思い出す・・・」
余裕の表情で触手を出現させる女。自身の身体の一部を切られているにも拘らず、不気味な笑みを浮かべ続けている。不意に触手の攻撃を止め、三人の様子を伺い始めた。
「「「?」」」
「ほれ、来るがよい・・・」
女が何もせず突っ立ったまま挑発の言葉を口にする。相手のその様子に三人は警戒した。
(何なの?・・・罠でも仕掛けているつもり?)
(この無粋な輩め、何を狙っている?)
(・・・・・・罠かもしれんが・・・チャンスでもある)
シンヤは彼女たちに小声で話す。
「俺が術で一気に決める・・・間合いを詰めるための援護を頼む・・・」
「シンヤさん?」
「シンヤ殿?」
「万が一を考えて、俺が接近したら離れろ・・・」
「・・・分かったわ」
「・・・承知」
レンジェと夢乃は彼の策に乗ることを承諾した。シンヤは左手を右脇に当てながら右手に青い光を集束させる。彼の右側にレンジェ、左側に夢乃が刀剣を構えて女を見つめた。
「ほほぅ・・・そう来るか・・・・・・いいだろう・・・」
「その余裕で・・・後悔するなよ!」
シンヤの叫びと同時に、三人は女に向かって走り出す。迎え撃つかのように女も多数の触手を背後から出した。それらをレンジェと夢乃が剣で切り刻んでいく。あと2、3歩のところで彼女たちは後方へ下がり、控えていたシンヤが飛び出した。
「はああああああ!!」
「ふふ・・・」
歪み笑う表情で何もしない女の首へ、シンヤは光る右手で握り掴む。それでも動じない女に、彼は床へ青色に輝く五芒星の魔法陣を作り上げた。
「終わりだ! 消え去れええええええええええ!!」
キィィィィィ・・・バシュウウウウウウウウウウウウウウウウ!!
「うわっ!?」
「姫様!」
眩しい光からレンジェを庇う夢乃。女とシンヤが青から白へと変わる光に包まれ、部屋中が真っ白に照らされた。光が徐々に治まり、レンジェと夢乃は瞑っていた目を開ける。
「「・・・!?」」
「・・・・・・なっ!?・・・ばかな!?」
そこに居たのは驚愕するシンヤと、彼に首を掴まれた状態で未だに笑う女の姿だった。
「ふふふふ・・・後悔するのはお前の方だ・・・」
「!?」
背中の多数の触手の内、数本が纏まって一束の大き目の触手が出来上がる。それは目の前のシンヤへ突っ込むように体当たりして、ドアのある側面の壁に押さえ付けた。
「がはぁぁぁ!!」
「シンヤさん!」
「シンヤ殿!」
「これが娘子たちの力か・・・・・・さて、次は・・・」
さらにもう一本の大き目の触手を作り、女はレンジェ達へ目を向ける。こちらに狙いを定めたと直観した夢乃は、レンジェの前に立って剣を構えた。
「姫様には指一本触れさせん!!」
「夢乃! 駄目よ! 下がって!」
「邪魔だ」
太目の触手が真っ直ぐ夢乃へ向かう。それは途中で分裂して背後へ回り込み、それぞれが彼女の背中で再度合体して体当たりをした。その奇襲に彼女は対応できず、そのまま天井へと押さえ付けられる。
「あぐっ!?」
「夢乃!」
「ふふふふ・・・」
不敵な笑いをこぼす女はさらに太目の触手を背後に二束作り上げた。そんな彼女を見て、レンジェは今まで経験したことのない怒りが膨れ上がる。
「あなた・・・よくも私の友人達を・・・」
「心配せずとも・・・すぐにそなたを喰らってや・・・」
「そう・・・そんなに・・・」
「む?」
「そんなに痛い思いをしたいの!?」
レンジェの怒りの言葉と同時に、彼女の影から黒い触手が出現した。それはリリムであるレンジェの魔力そのもので出来た触手で、実体を持った影である。レンジェの触手が女の身体とその触手へと巻き付いた。
「ほう・・・これは、これは・・・
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