闇夜を照らすランプの光。
屋敷内は少し不気味な明るさを保っている。
そんな屋敷の廊下を一人のメイドが歩いていた。彼女はサキュバスより小柄な角や羽、尻尾を持つ“インプ”という小悪魔のような魔物娘。彼女が真っ直ぐ廊下を歩いていると、行く先の方向であるものを目にした。
「?」
それはこの屋敷の主であるレンジェの護衛騎士セシウだった。彼女は頭だけ顔の表情が見えないほど俯き、こちらへ向かって来る。そして、メイドのインプの前で彼女は立ち止まった。
「セシウ様、どうされましたか?」
「・・・・・・」
「セシウ様?」
「・・・・・・こっちへ・・・」
「?」
セシウに手招きされて、インプのメイドは彼女に付いて行く。彼女が連れてきた場所は誰もいない個室だった。セシウが彼女を部屋に入るよう指示する。
「・・・中・・・・・・」
「中?」
彼女の妙な行動に、メイドは不信に思いながらも部屋の中へと入っていった。そこですかさず、セシウは彼女を突き飛ばして、部屋のドアを乱暴に閉める。部屋の中から何かの呻き声と卑猥な水音が響いた。
「・・・!・・・ぅ!・・・っ!・・・・・・・・・・・・・・・っ・・・」
一方、屋敷の厨房へとやって来たレンジェは、そこで料理を作る稲荷の紺と出会う。
「あら、レンジェ殿。まだ、晩御飯は出来ておりませんが・・・」
「今晩は何かしら?」
「今日は肉じゃがとほうれん草のおひたしです。怪我人の方もいらっしゃるので・・・」
「それは助かります・・・あっ、そうだ。紺さん、お水を貰えないでしょうか?」
「お水ですか? 少々お待ちください」
彼女は金属トレーに氷水の入った透明な水差しとガラスコップを乗せて、レンジェに手渡した。
「シンヤさんが咳き込んでいたので・・・」
「ほぉ、シンヤ殿という殿方ですか。では、虜の果実でも差し出しましょうか?」
「い、いえ! 結構です・・・あの方は色々事情があるようで・・・」
「ニヤニヤ♪」
「もう・・・お水ありがとうございます・・・」
紺に茶化されたレンジェは厨房から出ようとした時、ある不審なことに気が付く。
「そういえば・・・紺さん、メイドたちは?」
「それがおかしなことに、時間になっても誰も来ないのですよ。どこで油を売っているのでしょうね?」
「見かけたら言っておきます」
「すみませんねぇ・・・・・・全く、私一人で支度することに・・・」
彼女が愚痴を言っている間に、レンジェは厨房からそそくさと出て行った。一人取り残された紺はぶつぶつと呟きながら包丁で材料を刻んでいく。その時、彼女は厨房の入口から別の気配を感じてそちらに目を向けた。
「おっ?」
「・・・・・・」
「はぁ・・・大遅刻ですよ?」
そこに居たのは、乳牛の角と尻尾を生やした“ホルスタウロス”言われる魔物娘のメイド。彼女は顔を俯かせながらゆったりと厨房の中へ入って来る。
「他の人はどうしたのですか? 早く晩御飯を作らないといけないのに・・・」
「・・・・・・」
「・・・?・・・どうしたの? シーナ?」
「・・・・・・ニヤッ・・・」
「っ!?」
ガシャァァァァァァン・・・・・・
「それで、ジパングというのは東にある大陸のことなのか?」
「そうです。某もそこで生まれたジパング人であり、立派な侍なのです!」
ベットで横たわるシンヤは、夢乃からジパングについて説明を受けていた。これにより、彼はジパングというものが、自身の世界にあった戦国時代の日本文化と似ていることを知る。
「侍というより、神社の巫女に見えるが・・・」
「この方が動きやすいのです!」
服装について疑問に思うも夢乃に弁解される。
「まぁ、否定はせん。他人の趣向なぞ、気にする暇もない」
「それは同意できます。姫様のジパングかぶれは某も呆れるほどですから・・・」
「西洋の物の怪は、変わった趣向を持っているようだ」
「そういうシンヤ殿も少し変わった人に見えます」
「服のことか?」
「着物は別の世界から来たとおっしゃいましたから納得できます。某が気になっているのは、大人びた口調です」
少女が口にしたことに、彼は黙って天井へ目を向けた。
「それも否定はしない」
「理由は・・・」
「好きに創造しろ。どう思おうが、誰も困りはせん」
「も、申し訳ない」
「謝罪しなくてもいい」
そんなやりとりをしている時、両開きのドアからノックの音が響く。
コンッ、コンッ
「姫様?」
夢乃は音の主がレンジェだと思い、ドアの方へ歩いて行く。扉を少し開けると、そこには顔を俯かせたセシウが立っていた。
「セシウ殿?」
「・・・・・・夢乃・・・来て・・・」
「は?」
彼女の誘いに少女は扉を閉めながら部屋から出て行く。
「セシウ殿、
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録