「・・・・・・う・・・此処は?」
微かに香る植物の匂いで、男子学生は意識を取り戻した。彼は大木に背中からもたれて、足を伸ばして座っている。意識を取り戻すと、彼は今までの出来事を思い返した。
(奴は・・・何をしたのだ?・・・もし、奴の言う通りならば・・・ここは・・・・・・!?)
考え込んでいる最中、彼はある気配を察知する。木々に遮られて見えないが、それは明らかに彼自身の方へと向かって来る。急いで立ち上がろうとした瞬間、右脇腹に激痛が走った。
「うぐっ!?」
(あの時に受けた傷か!?・・・こんな時に・・・)
触手の鞭で叩かれた箇所。受けた直後は痛みを無理やり術で抑えていたが、すでにその効果は薄れ、激痛に耐えながらその部分を左手で抑えた。
(力が・・・まずい・・・・・・この状態で戦う訳には・・・)
彼は口を噛みしめながら迫り来る気配の対処を考える。
(一か八か・・・)
彼は右手に青い光を収束させて札を出現させた。それを自身の目の前にある地面へ放り投げ、地中に仕込む。
(あとは・・・相手がひっかかるかどうかだな・・・)
暗闇に包まれた辺り一帯。その真正面を彼は見つめ続けた。
(・・・・・・・・・!?)
彼は向かって来る相手の姿に驚く。まだはっきりとは見えないが、角や翼、そして尻尾という人外なる存在の姿に気付いたからだ。
(物の怪?・・・見たことが無い奴だ・・・・・・奴の手先か?・・・)
そんな中、彼は今まで感じたことの無い力を相手から感じ取る。
(なんだこれ・・・・・・何かに似ている・・・何の力だ?・・・)
彼がそう考え込んでいる内に、あと5、6歩で相手は罠の仕掛けた地面に辿り着く。彼はすぐに右手の拳を握り、罠の起動準備をした。
(例え物の怪でも・・・直撃すれば・・・・・・)
彼は気を静めて集中し始める。相手が札の入った地面に足を踏み入れた瞬間、彼は握っていた右手の指を二本だけ立てた。
(囲め!)
バシュ! バシュ、バシュ、バシュ・・・
相手を囲むように地面から鉄の棒を出現させる。2m以上の長さの棒で囲み込んだ後、右手を顔の前に構えた。
(かかった!)
続けて相手の足元に青く輝いた五芒星の魔法陣を描き、持てる限りの力を魔法陣に注ぐ。
「どうやら一匹だけのようだな・・・」
「!」
「悪いがこちらも余裕がないんでね・・・これで決めさせてもらう!」
「しまっ・・・」
「浄化結界!」
キィィィィィィィィ・・・
彼は相手を討ち取ったと確信した。魔法陣から出来た円柱の光が彼女を包み込む。
バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!
「なん・・・だ、と・・・・・・?」
「・・・?」
レンジェは目の前で起きたことに呆然としてしまう。目の前の男性は彼女を消し去ろうと罠を張り、まんまとそれにハマってしまった。
彼女は青い光に包まれたとき、“死”を覚悟した。
だが・・・・・・光が徐々に治まると、彼女の身体には何も起きていなかった。
特に外傷もなく、魔力も正常である。
彼が何をしたかったのか疑問に思うも、肝心の彼も何が起きたのか分からない様子だった。
(浄化結界が・・・無効化された!?・・・いや! 違う! むしろ効果がない!?)
「?」
驚愕する彼をレンジェはさらに見つめる。黒い服を上下に着た男性。前面を留める金色のボタンが縦に並び、若々しい髪形と顔が見えた。右の脇腹を抑える左手は怪我をしていることを示している。
「あの・・・」
「くっ!・・・ぐぅ!?」
「!」
突如、彼は苦痛の声を洩らし、歯を食い縛った。先程の罠の魔法陣へ残った力を使用することにより、抑えていた激痛と疲労が彼に襲い掛かる。あまりの唐突な苦痛に彼は耐え切れず、顔を俯かせて気絶した。
(こ・・・こま・・・で・・・・・・か・・・・・・・・)
「ちょっと!」
レンジェは思わず彼の傍に駆け寄り、相手の顔を覗く。すでに意識はなく、真っ青な表情で苦しそうな息切れをしていた。
「このままじゃまずいわ・・・」
「姫様〜!」
「!」
上空から聞こえた夢乃の声に、彼女は顔を振り向かせる。そこには照明魔法で辺りを照らす夢乃と、4人のサキュバス兵士が飛んで来た。彼女たちはレンジェのいる付近へやって来ると、男性の存在に気付く。
「姫様! その者は!?」
「ちょうどよかったわ。夢乃、この人を屋敷へ運びます。手伝ってください!」
「えっ? 一体な・・・」
「いいから手伝って、危険な状態なの! 長くは持たないわ!」
「しょ、承知!」
レンジェの一喝に夢乃が慌てて彼女の元へ近寄った。二人で協力して男性を抱えると、彼女たちは他のサキュバスとともにその場から立ち去る。静けさの増した森の
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