太陽が照らす森林地帯と草原に囲まれた町。そこは少し大きな街道を中心に居住区や市場がいくつも存在している。街道の奥にはこの町を統治するかのように巨大な館が立っていた。
その館内のバルコニーにある小さなカフェテリアで人影らしき者がくつろいでいる。
色気を漂わせる黒衣を身に纏い、背中には白い悪魔のような翼、腰には先がハートの白い尻尾、純白に輝く長髪に悪魔の黒角を生やした女性。その美貌は、男性なら間違いなく惚れてしまうほどの美女で、透き通るような白い肌は雪の如く輝いている。ちなみに顔の両脇には髪の一束を“黒色の髪飾り”で束ねている。
彼女はゆったりしながら町が見える風景を眺め続けた。ふとここで彼女がテーブルに置かれたものへ右手を伸ばす。喉が渇いたのであろう、彼女は手にしたものに口をつけて中の飲み物を飲んだ。
「ずずぅぅぅ・・・ふぅ〜」
彼女が手にしたものは湯呑で、中に入っていたのは緑茶である。美味しそうに味わった後、湯呑を置いて再度景色を眺めた。
そんな気楽な彼女の元へ、鎧を着た女性が歩いて来る。薄緑色の長髪をした騎士のような女性。彼女はデュラハンと言われる首が取れる魔物である。やって来た騎士はくつろぐ女性に話し掛けた。
「またこんなところで・・・何をしていらっしゃるのですか?」
「天気がよろしいのでお茶を・・・」
「はぁ・・・普通はお茶ではなく紅茶ですよ。しかも緑茶を飲んでいらっしゃるとは・・・」
「あら、これはただの緑茶ではないですよ? 玉露といって、ジパングでしか手に入らない貴重なお茶です」
「そんなお茶を何処で・・・あっ、まさか・・・」
「紺(こん)さんに頼んで分けてもらいました♪」
彼女の発言に頭を抱えてしまうデュラハン。それを見て心配になる純白の女性。
「セシウ、大丈夫ですか?」
「誰のせいで頭を悩ませていると思ってるのですか・・・」
「私のせい?」
「もう少し自覚を持ってください、レンジェ様」
レンジェと呼ばれた純白の女性。
彼女は“リリム”と言われる“魔王の娘”の一人。全ての魔物を凌駕するほどの魔力を持つサキュバスの王女である。
セシウと呼ばれたデュラハンの女性は、魔王の娘であるレンジェの護衛にあたる側近の一人である。少し気まぐれなリリムの行動に振り回されるが多く、特にレンジェのある趣味にはいつも頭を悩ませている。
「はぁ・・・ジパングかぶれは程々にしてください」
「そんなにかぶれてないでござるよ〜」
「・・・」
「冗談です♪」
「お戯れを・・・」
レンジェは幼い頃、東洋の地“ジパング”へ旅行することが多かった。本来は魔物に友好的であるジパングへある交渉のため、他のリリムの付添いで訪れていただけなのだ。その際、ジパングの文化に触れあうことが多くなり、それがもとで彼女はジパング文化の虜となった。
今ではこういう風にお茶を飲むだけでなく、食事も洋風より海鮮などもある和風が多い。また、読み物もジパングでの巻物を読み、おまけに向こうで剣術を学ぶこともあった。挙句の果てには・・・。
「そういえば・・・・・・」
「ええ。今しがた完成しましたので、それを知らせに参りました」
「やっとできましたのね。心待ちにしていました♪」
「よくもまぁ・・・茶を嗜むための場所をお造りになろうと・・・」
これも彼女の強い要望で、屋敷の庭に湯沸しも可能な炉付きの和風な家屋が造られた。設計や建造を担当したのは、ジパング出身の大工“アオオニ”である。これもレンジェが知り合ったジパングの魔物だ。ちなみにこの屋敷にはレンジェと知り合ったジパングの魔物が数人働いている。
「それでは、見に行きましょうか」
「御意」
屋敷の正門とは反対にある庭の右端付近。そこには竹と言われるジパング特有の植物で囲まれた小さな木造の家屋がポツンとあった。レンジェとセシウがその中へ入ると、すでに先客が待っていた。
「レンジェ殿、お待ちしておりました」
「あら、紺さん。もういらっしゃったのですね」
「出来上がったら早速お茶を堪能するのではと思いまして・・・湯も沸いたところです。どうぞお座りください」
少し青味のかかった着物を着た女性。彼女の腰の後ろには5つの金色の尾があり、同じ金色の長髪にはキツネのような耳があった。彼女はジパングの魔物で“稲荷”通称“紺”(こん)と呼ばれている。彼女はジパングの料理が得意で、屋敷の料理長としても腕は一流だ。
「どうぞ、出来立ての抹茶です」
紺は正座をしている二人に抹茶の入った茶碗を差し出す。ほんわかと飲むレンジェに対し、セシウは四苦八苦しながら飲んでいた。彼女は抹茶の苦さも苦手だが、それ以上に辛かったのは正座している足のしびれだった。耐え切れず正座を解
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