私はある国の兵士だった。ある遠征で別の国との戦いがあり、私を含めた兵たちは敗れ去ってしまった。運よく私は生き延びたが、残党狩りもあったため、祖国へ帰るのは容易ではなかった。
なんとか祖国へ辿り着くと、そこは廃墟と化していた。それを見た私は急いで自宅へ足を走らせた。そこには・・・私の大事な・・・・・・“妻と娘”が居たからだ。
家は崩れていた。そして・・・・・・崩れた瓦礫の間から生えていた小さな手。私はその手を握り締めた。その手には小さな花の髪飾りが握られていた。
私が娘に挙げたもの
大切な贈りもの
愛しかった・・・
あれから2年の歳月が過ぎ、私は祖国を失ったため、旅人として生きていた。以前の防具は胸当てと小手だけを残し、後は路銀として売った。自衛用のロングソードも手入れは怠らず、小さなナイフも隠し持った。
道中では盗賊や魔物などが出てくる可能性があったが、今まで経験した剣術や体術が役立ったおかげで生き延びられた。思えば30の歳を過ぎてから2年の間、生き延びるのに必死だった。その日に寝泊まりするためのお金を稼ぐため、街での仕事や、依頼で盗賊退治、商人の護衛などをした。
そんな日々が続いていた時、私はある山脈を越えた港町へ行こうと足を進めていた。その港町から船に乗り、気晴らしで別の大陸へ行くつもりだった。しばらくしてある一つの山を登っている最中に、何かの焼けた臭いが漂ってきたことに気付いた。
慎重に進んで行くと、そこには以前見た光景があった。そこは小さな集落がある場所・・・いや、集落だった場所と言った方がいいだろう。家々は崩壊し、遺体がそこらに転がっていた。中には焼かれた遺体もあり、それが臭いの正体だった。
そして、その集落で一番目に付いたのは・・・。
(翼・・・ハーピーか?)
ハーピーと言われる鳥のような翼の腕と鳥の足を持つ魔物。彼女たちは山岳などの高い場所に住んでいることが多く、鳥と同じく空を飛ぶことが出来る。そんな彼女たちが名何故こんな目にあったのだろうか? 疑問はすぐに判明した。
近くの崩壊した家に、血で描かれた十字の落書き。恐らく反魔物派の教団がやったのだろう。彼らは危害の無い大人しい魔物ですら、排除しようとする無差別な輩の集まり。私自身もあまり魔物に肩入れする訳ではないが、無抵抗なものまで排他する行動は同意できない。
人としてやっていることが魔物以上に酷過ぎる。何故、それ程に奪うことしか出来ないのだろうか・・・。
「・・・?」
ふと見ると、辛うじて崩れていない家が一軒あった。壊された玄関から入ると、すぐそばに血塗れの男の人間が倒れていた。恐らく、剣で切り殺されたのだろう。奥の方には、同じ手口で殺されたハーピーの女性が俯せに倒れている。その傍らには複数の割れた卵が転がっていた。
「これは・・・」
割れた卵の中には人でいう赤ん坊ぐらいのハーピーの子どもが息絶えていた。こんな、こんなことまでするのか? いくらなんでも非人道的だ。まだ何もしていない、生まれて間もない赤子まで・・・。
「・・・!?」
その時、私はあるものに気付いた。微かだが、寝息の音が聞こえる。その音はハーピーの女性の下から響いていた。彼女の翼を持ち上げて見ると、そこにも割れた卵があった。ただ他の卵と違い、その中には寝息を立てる赤子が入っていた。
「すぅ・・・すぅ・・・すぅ・・・」
まるで周りのことなど気にせず眠っている。私はその子を卵の殻ごと抱え上げた。まだ赤子なのに容姿はハーピーそのものである。俯せになっていたハーピーの髪の色と同じく、金髪の可愛らしい女の子。よく生き延びていたものだ。
やはり・・・この母親らしきハーピーが必死で守ったおかげなのだろう。その親心で生き延びた赤子。だけども、守ってくれる親や知り合いはもういない。どうすれば・・・。
「すぅ・・・すぅ・・・?」
「!」
突然、眠っていたはずの赤子が目を覚まし、抱きかかえている私の目を見つめた。
「あぁ、あぁあ♪」
赤子は私を見て微笑んだ。私を親だと思っているのだろうか? だけども、私は・・・。
「あぁあ♪ あぁあ♪」
「・・・」
この子を守る者はもういない。だからと言って見捨てることは、私には出来なかった。この子の母親がしたことを無駄にはしたくない。私がそれを引き継ごう。その前に此処の住人達を弔ってやらねば・・・。
8年後、私はある山脈付近の森林奥で小屋を造り、そこで生活を送っていた。そして・・・
「パパ〜」
赤子だったあのハーピーは、人間の子どもでいうと八歳くらいの大きさまで成長していた。手の翼や鳥の足だけでなく、輝く金色の髪も親にそっくりだった
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6]
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想