鏡合わせの磁石

<戦艦クリプト 個室 通路>

「だ〜か〜ら、僕の方が先だったんだ!」
「い〜や、違う!僕の方だ!」
「なんだと!」
「そっちこそ!」
「「ぐぬうう!」」

 朝から戦艦の通路内は騒がしかった。その理由は黒肌で瓜二つの少年たちがお互いを睨み、怒りにまかせていがみ合っていたからだ。その様子を見ているイーグルとレックスは呆れてしまう。

「またか・・・」
「ここまで衝突し合ったのは約1か月前かと・・・」
「「むぬうう!!」」

 お互いの両手が掴み合い、さらにエスカレートしそうになる。見かねたイーグルが止めに入った。

「二人とも、それ以上は止めろ」
「「ふ―、ふ―」」
「全く、ラキみたいに謹慎を受けたいのか?」
「「・・・」」

 彼の言葉に反応して、黒肌の少年たちは手を離す。

「「ふんっ!」」

 ぷいっとお互いの顔を背けた後、左に居た少年だけが去っていく。残された少年は知らん顔したままであった。イーグルはため息をつきながら、残った少年に話し掛ける。

「今回も喧嘩か?」
「・・・」
「やるなとは言わんが・・・ラート、お前たちは双子だろう。任務中でも喧嘩するつもりか?」
「それは・・・」

 彼の質問に口ごもるラート。

「お前たちのお互い気に入らんところもあるだろうが、互いの協力が必要な時がある。些細な反発でお互いを危機に晒すつもりか?」
「・・・・・・」
「話はこれくらいにしといてやろう。今日も自由行動だ。情報収集だけは忘れるな」
「了解・・・」

 消沈するラートを放置して、イーグルとレックスはその場を後にした。2人は歩きながら2人についてしゃべる。

「扱いにくい未成年だ」
「隊長も未成年ですが・・・」

 人型万能機械に突っ込まれる19歳の少佐。

「確かにあと半年経たなければ・・・だが、少なくともブレードと私は成人しきっている」
「はぁ・・・」

 首をかしげるレックスを余所に、イーグルは冷静にしゃべりつづける。

「部隊で成人しきってない奴は一人を残して、ほぼ全員だ。本当なら、彼らは同じ年代と一緒に学業を励んでいるはず・・・」
「ですが、彼らはプロフィール上、特殊すぎます」
「そういうことだ。そして、現在、幸運か、不運かは知らんが、こんな機会は滅多にない。本来ならのんびりさせる暇はないが、状況が状況だ。好きにやらせる」
「そうですね・・・」

 彼の判断について同意するレックスは、少し後ろを向いてラートの様子を伺った。立ち尽くしていた少年は、ゆっくりと自室に入っていく。

「何にせよ、時間が過ぎれば、ほとぼりが冷めるだろう」
「人間の感情は複雑で解析しにくいです」
「それらしい行動しているくせに・・・」
「?」


<都市アイビス 南の森>

 1人の黒肌の少年が長い物を片手に持ちながら歩いている。レートは気晴らしのためにスカイチェイサーで南の森付近までやって来た。

彼の左手に持っている物は『イサカM87』と言われるショットガンで、ピストルグリップにより57cmと小型になった散弾銃。軍用の12ゲージの弾を使用するが、現在は暴徒鎮圧用としてゴム弾を装填することが多い。

 レートはゴム弾を装填したショットガンで憂さ晴らしに来たのだ。適当に見渡すと、手頃な大岩を発見し、狙いを定めて発砲する。

「ラート!あほ!ボケ!カス!バカ!」

 少年は言葉に合わせて5発発砲する。新たにゴム弾をポケットから取り出し、銃に装弾した。ポンプを引いて一発を装填し、最後にもう一個装弾して銃を構える。

「あれ?お兄ちゃんだ!」
「変な音がすると思ったら・・・」
「!?」

 不意にレートの背後から声が聞こえて、彼が慌てて振り返ると、そこには見知った顔の者たちがいた。バスケットを片手に抱えたインプのサリナと、その隣で手を繋いでいるゴブリンのミーニである。その後ろにはアラクネのリーデと男の子のハンもいた。

「お兄ちゃん、何してるの?」
「あ、え―と・・・・・・ただのストレス解消?・・・」

 ミーニに質問されて気まずそうになる少年。そんな彼にゴブリンの少女はしがみついた。

「お兄ちゃん、ご飯食べよう!」
「え、ご飯!?」
「私たちはこっちでピクニックしてるの。あなたもよければどう?」
「い、いや、サリナさん・・・」
「一緒に食べよう!ねっ!」
「あ、ちょっと!」

 少年は半ば強引に少女に引っ張られ、その場から連れ出される。やって来た場所はシートが敷かれていて、街が見える景色のいい平原。レートは無理やり座らされて、サリナからパンを差し出される。

「どうしたの?今日はいつもの二人じゃないの?」
「べ、別に・・・」
「喧嘩したんでしょ?」
「う・・・」

 サリナに図星を突かれて黙り込んでしまう少年。それを見て笑うミーニと子ども達。

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